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静岡県大瀬崎で観察されたマンボウとシラコダイの掃除共生

澤井悦郎・相原岳弘

Abstract / Introduction / Summary:

異種間における相互関係の中で,双方に利益がある関係を相利共生と呼び,掃除(クリーニング) によって成立している共生関係を掃除共生という(桑村,2017).掃除共生には,クリーナー(掃除する側の種)はクライアント(掃除される側の種) から餌を得ることができ,クライアントはクリーナーに外部寄生虫や壊死した体表組織を除去してもらうことで健康になるという相互利益があると考えられている(Helfman et al., 2009; 桑村, 2017).

静岡県の大瀬崎は1985 年に正式なダイビングスポットが開設され(池・有賀,1999),少なくとも白鳥(2008) からチョウチョウウオ科Chaetodontidae シラコダイChaetodon nippon Steindachner and Döderlein, 1883 によるマンボウ科Molidae マンボウMola mola (Linnaeus, 1758) への掃除が報告されている(澤井・相原,2024).しかし,先行研究による報告はスキューバーダイバーによる簡単な観察記録のみであり(例えば, 白鳥,2008;安延,2011),掃除に関連するシラコダイとマンボウの行動は詳しく調べられていない.また,そもそもスキューバーダイビング中にマンボウと遭遇する確率はかなり低い(安延, 2011).

しかしながら,動画共有サイトYouTube には大瀬崎で撮影されたマンボウ属Mola の水中動画が少なくとも85 個アップロードされている(澤井・相原,2024).YouTube 動画はいつでも削除される可能性があり,データのソースとしては不安定であるが,むしろ観察したデータを詳細に文章化することで,動画自体が消えても観察したデータは未来に残すことができる.YouTube 動画を使用して野生動物の行動を調査した先行研究の一例としてRebolo-Ifrán et al. (2019) が挙げられる. そこで本研究は,YouTube 上にアップロードされ,大瀬崎のスキューバーダイバーによって撮影されたマンボウの動画(第二著者が撮影した動画も含む)に焦点を当て,掃除に関連するシラコダイとマンボウの行動について詳しく調査を行った.