/ 049-030

喜界島に侵入したコガタスズメバチの成熟巣の解析

高橋純一・木村隼大・西村穂貴・伊地知告・坂巻祥孝・山根正気

Abstract / Introduction / Summary:

膜翅目のスズメバチ科・スズメバチ(Vespa)属は, 世界で22種が記録されている(Archer, 2012; Perrard et al., 2013).国内では北海道から南西諸島にかけて7種が自然分布する(松浦・山根,1984;松浦,1995).日本産スズメバチ属はいずれの種も1年性の単女王性・真社会性種で,越冬を終えた女王バチが,春に単独で営巣を開始する.営巣場所は,木の枝や人工建築物の軒下などの開放空間と,木の洞や土中の空洞,建造物の屋根裏,戸袋,床下などの閉鎖空間に大別される.

コガタスズメバチVespa analis Fabricius 1775は,北海道から八重山諸島まで日本産スズメバチ属の中で最も広域に分布している(山根,1988).成虫の体色により3亜種が区別されており,北海道,本州,四国,九州と佐渡島,対馬島,屋久島,種子島,口永良部島にV. analis isularis Dalla Torrer 1894が,奄美大島,沖永良部島,加計呂麻島,徳之島,沖縄島にV. analis eisa Yamane 1987が, 西表島と石垣島にはV. analis nagatomii Yamane 1987が分布している(Yamane, 1987;松浦,1995;Saito-Morooka and Yamane, 2022;西村ほか,2022).本種は,雨や直射日光が直接あたらないような地上およそ2 m以下の木本類の枝や家屋の軒下などの開放空間に営巣する.初期巣は,創設女王バチが単独で造巣し,徳利または一輪挿しの花瓶をさかさまにした形状を呈する.その後,約1ケ月経過すると働きバチが羽化してきて巣の形状は楕円型,洋ナシ型または雨粒型となる.秋には巣は50 cm 前後の大きさとなり,働きバチ数も100から300頭前後となる.晩秋には,次世代の新女王バチと雄バチが羽化し,野外で別巣由来の個体と交尾し(Takahashi et al., 2003, 2007),新女王バチが翌年まで越冬をする.体長は,女王バチが25から29 mm,働きバチは22から27 mmである.働きバチ数は,日本産スズメバチ属の中ではヒメスズメバチVespa ducalis Smith 1858に次いで少ない(松浦,1995).巣の大きさや働きバチ数は,薩南諸島の個体群が本種の中で最大となる(山根・川畑,2017). 薩南諸島の奄美群島に属する喜界島は,約12万年前にフィリピン海プレートの滑り込みにより海底から隆起した島である.総面積約57 km2のうち約19%が森林である.もっとも近い奄美大島からは東北に約25km離れていて,北緯28度20分,東経130度00分の地点にある.喜界島のスズメバチ科相は,アシナガバチ亜科のキアシナガバチPolistes rothneyi Cameron 1900とオキナワチビアシナガバチRopalidia fasciata Fabricius 1804の2種のみからなる.2021年8月にこれまで記録がなかった喜界島においてコガタスズメバチの巣が発見された(山室ほか,2021).その後,喜界島役場が設置した捕殺トラップにより2021年および2022年において本種の女王バチが捕獲されたことから島内での繁殖・定着が示唆されている.今回我われは,2022年10月に同島で本種の巣を発見・採集し,繁殖期の巣の発達状況について初めて分析を行ったのでここに報告する.