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奄美大島瀬戸内町清水公園内のコオロギ類の発生消長

栗和田隆

Abstract / Introduction / Summary:

コオロギ類は飼育・繁殖のしやすさや適度な体サイズ,入手の容易さといった特徴から,実験室内での生理学や遺伝学,行動学的な研究によく用いられてきた(Gerhardt and Huber 2002).しかし,野外での生態についてはあまり研究例がない.例えば,野外での食性や種間関係については報告例が非常に少ない.

コオロギ類の際立った特徴としてオスがメスを誘引したりオス同士が縄張りを主張したりするために音響シグナルを用いることが挙げられる.音響コミュニケーションの研究手法としては,実験室内の統一条件下でオスの音響シグナルの特性やメスの反応を測定するといったものが主である.したがって,他種の音響シグナルの影響を考慮することはあまりない.例外として,種間交雑に関する研究例は比較的多くある.例えば,分布域の重ならないエゾエンマコオロギTeleogryllus infernalisとタイワンエンマコオロギT. occipitalisではオスの求愛信号を両種のメスがうまく識別できないが,両種と分布域が重なるエンマコオロギT. emmaの求愛信号を各種のメスは識別できる(Honda-Sumi 2005).これは種間交雑を避けるための適応であろう.このように,音響信号は標的である同種他個体だけでなく,同じような音響信号を用いている他種にも影響する.さらに,音響信号を利用して捕食や寄生をおこなおうとする盗聴者も存在する(Zuk and Kolluru 1998).この考えを拡張すると,体サイズの大きな種が小さな種の鳴き声を聞いて貴重な資源である好適な鳴き場所を奪いに行くといった可能性も考えられる.このように,コオロギ達の種間関係には興味深い課題が数多くある. コオロギ達の種間関係を解明していく上では,どういった種がどれだけ同所的に生息しているのかをまず解明する必要がある.そこで本研究では,奄美大島の公園内の草むらで同所的に生息するコオロギ類を定量的に明らかにした.なお,本稿は栗和田(2018)に2年分のデータを追加し再解析したものである.