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鹿児島大学総合研究博物館に保存されていたマンボウ属魚類標本の形態的種同定

澤井悦郎

Abstract / Introduction / Summary:

マンボウ属魚類は世界中の温帯・熱帯海域に分 布し,全長 3 m 以上,体重 2 t 以上の巨体になる ことから,標本の採集,運搬,保存が非常に困難 な魚である(山野上・澤井,2012).ミトコンド リア DNA を用いた系統解析の研究が始まるまで, 日本近海ではマンボウ[Mola sp. B(山野上ほか, 2010)]とウシマンボウ[Mola sp. A(山野上ほか, 2010)]の 2 種が 1 種として長い間混同されてき た(山野上・澤井,2012).DNA 解析と形態調査 を組み合わせた研究から,これまでに確認された 日本近海における両種の体サイズ範囲は,マンボ ウは全長 31–277 cm,ウシマンボウは全長 181– 332 cm であり,全長 1.8 m 以上において両種は形 態 的 に 異 な る( 澤 井 ほ か,2009;Yoshita et al., 2009).また,全長 1.8 m 以下のウシマンボウは 日本近海では未だ確認されておらず(澤井ほか, 2015a, b),鹿児島県ではマンボウの出現のみが遺 伝的に確認されている(Yoshita et al., 2009). 鹿児島大学総合研究博物館には,鹿児島県産の 全長 1 m 以上のマンボウ属 2 標本が液浸(ホルマ リン)で保存されている.本属は全長 1 m を超え ると体重 50 kg 前後と重くなり(澤井,未発表), また保存する大きな容器が必要となるため,通常 全長 1 m 以上の標本は剥製にして保存される. よって,同館の全長 1 m 以上の本属液浸標本は日 本国内でも稀有であり,学術的価値が高い. そこで本研究では,同館のマンボウ属 2 標本の 形態を調査し,ウシマンボウとマンボウのどちら であるか改めて種同定を行った.また,同館には 生鮮時の写真が保存されていたため,ホルマリン 固定後の色彩変化も観察した.