/ 041-002

アナグマの被害に対する河川堤防の保全策

鮫島正道・宅間友則・角 成生・今吉 努・ 下沖洋人・東郷純一・中村麻理子

Abstract / Introduction / Summary:

アナグマ Meles meles は,ヨーロッパから極東 までのユーラシア北部に広く分布し,日本では, そ の 亜 種 で あ る ニ ホ ン ア ナ グ マ Meles meles anakuma が本州,四国および九州に分布している. 鹿児島県内の分布は,県本土全域だとする阿部ほ か(1994)と小宮(2002)の記載と,大隅地域の 一部を空白とする安間(1995)と環境省(2002) の二説がある.本報告では,鹿児島県内のアナグ マの分布について,筆者らの既存の調査結果から 見解を示した. 形態は全体にくすんだ褐色で,四肢と胸部はや や濃い褐色をしており,両眼部は黒っぽい褐色, その間の鼻鏡部中央は白く目立つ顔模様となって いる.ずんぐりした体形で耳は短く,四肢の爪は 長く湾曲している.頭胴長は 44–68 cm,尾長は 12–18 cm,体重は 4–12 kg である(図 1). ニホンアナグマは平地から低山帯に多く,主に 森林に棲み,谷に面した斜面を特に好み,複数の 穴を掘って生活する.夜行性で主に夜に活動する が,筆者らは昼間でも採餌行動や移動個体をたび たび観察している.ミミズや昆虫などの土壌動物 や小動物などとともに,落下した果実やドングリ などの植物も食するため雑食性といえる. 野生動物の中で穴掘りの特性をもつ動物は,モ グラ,キツネおよびアナグマがある.特にアナグ マは大規模で多様な構造の穴を掘ることが知ら れ,名前の由来にもなっている.鹿児島県内では, 人里の住居環境や道路斜面において,土砂災害等 に結び付くようなアナグマ被害は聞かないが,河 川堤防の決壊誘発に伴う重大な被害が想定され る. 河川堤防は地域住民の人命や財産を守るために 欠かせないものである.河川管理の中心となる法 律は 1964 年に制定された河川法であり,その後 環境基本法の成立を受けて,1997 年に「環境」 が加わった.河川法の目的は,洪水や高潮等の災 害防止(治水),河川の適正利用や流水の正常な 機能維持(利水),河川環境の整備と保全(環境) が達成できるように総合的な管理を行い,公共の安全や福祉を増進すること等(第 1 条)とある. アナグマは河川環境の生態系の一構成員であり, アナグマの存在を否定することはできない.野生 生物の保全と堤防保全とのジレンマに陥るのがこ こにある. 本報告の骨子は,アナグマの存在を否定せず, 効果的に堤防の保全を進め,工事後の状況把握の ための生態調査(モニタリング調査)を実施し, さらに順応的管理(アダプティブマネージメント) のヒントを得ることである.