Abstract / Introduction / Summary:
幼児教育の専門分野に領域「環境」がある.幼 稚園教育要領ならびに保育所保育指針によれば, 子どもたちが自然に触れることの重要性につい て,三つの視点が述べられている.それらは,「① 自然環境で元気に遊び,心も体も健康に.②自然 への興味・関心が広がり,豊かな感性がはぐくま れる.そして,③動植物との触れ合いによって, 生命の尊さに気付く」である. 幼児教育養成校の当学園(第一幼児教育短期大 学)での自然教育・環境指導法では,自然を理解 でき,積極的に幼児を野外に導き出す教育者養成 を心掛けている.また保育者の認識している世界 が狭ければ,幼児は開かれた世界を認識すること は困難である.そのためにも,自然に強い保育者 養成を目標にしている. 幼児教育分野で,子どもを屋外に導き出すリス クとして有害生物の存在がある.幼児期は,身近 な生きものに対し強い興味をもつ時期である.九 州南部地方の子どもの自然遊びのなかに乙益 (1996)の「草花遊び・虫遊び」についての記載 がある.その中でクモ類を対象とした遊びとして, コガネグモの喧嘩,ジグモの袋取り,オニグモ網 のセミとり,ハエトリグモの観察などが各世代を 通して楽しい虫遊びとして紹介されている.第一 著者の育った地域(南九州市川辺町)でも同様で ある. 志村(2005)の「危険・有害生物図鑑」ならび に日本自然保護協会(1982)の「野外における危 険な生物」によれば,日本に生息する蜘蛛類によ る咬傷で注意したい種類としてコマチグモ類,オ ニグモ,アシダカグモなどが挙げられている.そ の 中 で も カ バ キ コ マ チ グ モ Chiracanthium japonicum が最強毒とされている.カバキコマチ グモは,雌の体長が約 12 mm,雄は 8–10 mm で, 背甲が橙色ないし黄褐色,口器が黒色,脚が黄色 で末端は黒,腹部が雌では丸味があり緑黄色,雄 では細く黄色,雄の牙が長いなどの特徴を有する. また,雌は夏季にススキなどイネ科の植物を巻い て産室を造り,その後子グモの餌となって死ぬこ とが知られている.産卵巣は粽(ちまき)状に巻 いた形状をしていて興味をそそることから,事故 実例は,いわゆる「巻いているススキやササの葉」 を開こうとして咬まれるケースが多いといわれ る. 本校の卒業研究「自然遊び研究」の体験学習会 の一環として調査・観察会を行った.今回の現地 確認調査は,ごく普通の環境で身近な生き物であ りながらあまり知られていないクモ類,特に国内 で最も強毒といわれるフクログモ科コマチグモ属 のカバキコマチグモを対象にした.カバキコマチ グモの鹿児島県内での生息状況を確認するため に,「巻いた葉で造られたクモの巣」を指標に定 めて,それを探す調査とした.