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カヤネズミの球巣構造と巣内残留物

宅間友則・鮫島正道

Abstract / Introduction / Summary:

カヤネズミ(Micromys minutus)はネズミ目ネ ズミ科に属し,成獣でも頭胴長 50–80 mm,尾長 61–83 mm,体重 7–14 g 程度の小さなネズミであ る(図 1).本州の宮城県及び新潟県・石川県以南, 四国,九州に分布し,島嶼では隠岐諸島,淡路島, 対馬,口之永良部島などが知られているが,詳細 ではない.主に低地から山地(標高約 1,200 m ま で)の茅場に生息し,種子や昆虫類を食べている とされている.1 回に生まれる仔の数は 2–8 頭で ある(阿部ほか,2005).繁殖期は主に春季と秋 季で,育児はイネ科やカヤツリグサ科を材料とし た直径 7–10 cm 程の球形の巣(以下,球巣)で行 われる(図 2).球巣はカヤネズミの生息の有無 を確認できる唯一のフィールドサインであり,多 様な情報を内包している. カヤネズミは生活史の大部分を茅場に依存す るため,ある程度まとまった面積の茅場が必要で あり,古くから茅を利用してきた我々人間の生活 圏周辺で共存してきた.しかしカヤネズミは我々 人間に対し “ 益獣 ” や “ 害獣 ” といった括りに当 てはまらないことから,特に注目されることもな く,しばしば自然的・人為的撹乱にさらされてい るのが現状である.さらに従来の河川整備や農業 形態の変化から,茅場の消失や劣化が進行してお り,国内の既存分布域のおよそ 6 割の地域で,絶 滅危惧種等の希少種に指定されている(全国カヤ ネズミネットワーク,2003).鹿児島県内では川 内川流域や肝属川流域他,複数の産地が知られて いるが,その一方で県レッドデータブックにて絶 滅 危 惧 II 類 に 指 定 さ れ て い る( 鹿 児 島 県, 2003).従って,カヤネズミの生息環境保全に向 けた効果的な対策の検討が求められており,諸生 態の解明は急務と考えられる. カヤネズミの生態や分布については,白石 (1964),鮫島(1997),畠(2000 他),船越(2004) 他による研究や情報収集がされており,営巣につ いては宮田(2005)による観察記録がある.しか し生態や繁殖行動については未解明な部分が多 く,報告は断片的である.本報告では球巣調査に よって収集されたデータをもとに,既存知見との 比較を行うとともに,生態解明を試みた.