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鹿児島県大隅半島におけるヤマネGlirulus japonicusの生息確認と分布

船越公威・安田雅俊・南 尚志

Abstract / Introduction / Summary:

ヤマネ Glirulus japonicus は,本州,四国,九州, 隠岐島後に分布する 1 属 1 種の日本固有種で, 1975 年に国の天然記念物に指定されている(金 子,2005).頭胴長約 75 mm,尾長約 50 mm,体 重は約 17 g 前後であるが冬眠前には約 37 g に達 する(金子,2005; Iwasa, 2005).体毛について, 背面は淡褐色で,背中に黒褐色の一筋の線があり, 目の周りや尾も黒褐色である.尾は,ネズミと違っ て,長い毛で覆われている. 生息域は低山帯から亜高山帯の森林で,主に 夜間・樹上活動をする.行動圏は雄で 2 ha, 雌で 1 ha であり,生息密度は 0.8 頭 /ha である(芝田, 2000).樹洞などに樹皮やコケを敷き詰めて巣を 作る.食性をみると,盲腸をもたないため,高栄 養で消化しやすい果実,種子,花(花蜜),新葉, 昆虫などを摂食する(芝田,2000).食物が欠乏 する冬季には冬眠に入るため,秋季に大量の脂肪 を体内に蓄積している.越冬は中部地方で半年に も及ぶが,温暖な和歌山では 4 ヶ月と短い(芝田, 2000; 湊,1986).越冬場所は,樹洞,落ち葉の下, 浅い土の中,朽木内である(湊,1999).ヤマネ 科の動物は一般に冬眠期間中も中途覚醒する (Walhovd, 1976; 大津,1991). 繁殖について,中部地方に生息する雌は年 1–2 回繁殖し,1 回当たり 3–6 頭出産する(芝田, 2000;Minato, 1996).出生後,満 1 歳で性成熟に 達するが,飼育下では出生後の冬眠前に繁殖に関 与する例がみられる(芝田,2000; Minato, 1996). 寿命は 3 年であるが飼育下では 9 年の記録がある (金子,2005; Iwasa, 2005; 湊,2000). 九州におけるヤマネの生息状況や分布に関し ては,これまでの文献資料を基に安田・坂田(2011) によって総説としてまとめられている.それによ ると,各県の低標高の照葉樹林から高標高の落葉 広葉樹林まで広く分布し,秋から冬季に 3–5 頭を 出産,11 月下旬から 4 月下旬に冬眠する.近年, 福岡県(馬場,2003),長崎県(湊ほか,1998; 松 尾,2010),熊本県(坂田ほか,2010; 安田ほか, 2012),大分県(佐藤,1998)および宮崎県(木 場ほか,2008; 安田・栗原,2009)で生息の再確 認や新産地が報告されている.鹿児島県では,霧 島山(日野・森田,1964),大口市(日野・森田, 1964; 森田,1974),稲尾岳(森田,1986)での報 告があるが,これらの生息確認記録は 1967 年以 前で約 50 年前のものであり,現状は把握されて いない. そこで,今回は大隅半島を中心に,生息実態 調査を行い,本種の分布を確定するとともに,本 地域における南限種としての意義と地域個体群と しての位置づけを行った.また,冬季における若 干の生態的知見を得たので報告する.