薩地方におけるキツネ Vulpes vulpes japonica Gray, 1868 の生息は,現在のところ阿部(1994), 小宮(2002)等によればマイナス分布となってい る.しかし,生息についての断片的な情報があり, これらの内容を確認する意義および重要さがあ る.今日では,散発的な生息はあるが,安定した 繁殖個体群からなる生息分布は確認できていな い. 日本産のキツネは,本州・四国・九州のホンド ギツネと,北海道のキタキツネの二つの亜種に分 けられる. キツネについての一般的記載として,「形態」 については,大きさが頭胴長 60 ~ 75 cm,尾長 30 ~ 40 cm,体重 3 ~ 6.5㎏である.とがった口先, 大きく先がとがった三角形の耳,太くふさふさし た長い尾などが特徴である.体と尾は黄褐色で, 背中線は赤褐色をしている.尾の先端部が白色で あること,四肢の全面と耳の背面が黒色であるこ とも,目撃した際の識別に役立つ.「生態」につ いては,里山から高山までの森林に生息し,林縁 部の草原や農耕地にも出現する.野ネズミ,鳥類, 大型の昆虫などの小型動物を食べている.人家の ゴミを漁ったりニワトリを襲ったりすることもあ る.春先,3 ~ 4 月に平均 4 頭の仔を巣穴の中で 出産し,8 月頃まで家族で生活し,子ギツネは分 散していく.それと共に家族生活も崩壊し,成獣 も単独生活に戻る.「行動範囲」については,一 般的にキツネは 4 ㎢ほどの行動圏をもつが,その 地域の餌動物の量や繁殖期に入っているかどうか などで大きく変化する.環境によっても違い,森 林で 2.5 ㎢だったものが,隣接した草原や荒地で は 25 ㎢にも及ぶ例も知られている. キツネは同じイヌ科で生息数の多いタヌキと比 較して,行動範囲・食性等の生態に特異性がある. また,生息数ならびに地域における生息状況の消 長に特徴がみられる. 哺乳類の生息調査については,自然環境研究セ ンター(1996),朝日 稔ら(1991),川道武男ら (1991),阿部 永ら(1994),田名辺雄一ら(1995), 森林野生動物研究会(1997)等が詳しい. 哺乳類の生息情報の収集には,一般に,①目視 調査,②捕獲調査,③聞き取り・アンケート調査 の三つの方法がある.目視調査の中で,哺乳類の 姿の直接目視は観察効率が悪く作業量が多くなる ため,痕跡観察法(フィールドサイン法)と無人 撮影法が主流になる. 今回採用した痕跡観察法(フィールドサイン法) は,ノーベル賞学者の Tinbergen(1967),Murie (1974)に始まる.国内では今泉(1977),安間 (1985),川道(1991),子安(1993),門埼(1996), 今泉(1998),小宮(2002)があり,鹿児島県産 哺乳類については鮫島(1999)がある. 今回の調査は,断片的な情報の聞き取りや資料 の整理と,南九州市川辺町神殿地区の繁殖個体群 の生活痕跡(フィールドサイン)の観察を主眼と した生態調査である.また,地域特性であるシラ ス地形とキツネの生息環境との関連性についても 把握を試みた.

南薩地方のキツネの分布と生活痕跡(鮫島正道・中村麻理子)