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鹿児島県産のキツネの生息状況と保全

船越公威・岩元洋平・西田洸平

Abstract / Introduction / Summary:

キツネ Vulpes vulpes は食肉目のイヌ科に属する 哺乳類で,ユーラシアの大部分と北米に広く分布 し,日本では北海道,本州,四国,九州に分布す るが,北海道産をキタキツネ V. v. schrencki と本 州以南をホンドギツネ V. v. japonica と亜種で区別 することがある.キツネの体毛について,背面や 側面が黄土色または赤褐色で,顎の下,腹部およ び尾の先端は白色である.頭胴長 60 ~ 75 cm, 尾長 40 cm 前後で太くて長い.体重は 4 ~ 7 kg である(中園,1996;米田,2005).都市近郊か ら山岳地まで生息する. 肉食傾向の強い雑食性で,ネズミ類,鳥類(ニ ワトリ),大型昆虫などの他,果実(イチゴ,ア ケビ,カキなど),時にはトウモロコシ,サツマ イモ,スイカなどの栽培作物も摂食することがあ る.交尾期は冬季(12 月~ 2 月)で,春先(3 ~ 4 月)に平均4子(2~7子)を巣穴で出産する. 夏季まで家族群で生活し,前年生まれの雌がヘル パーとして子育てに参加する(中園,1996;米田, 2005). 鹿児島県産のキツネについては,1960 ~ 1970 年代に薩摩半島北部の阿久根市,大口市およびさ つま町での捕獲例や家禽の被害例が報告されてい る(森田,1974).一方,個体数が著しく減少し ているようで,頴娃町,吉松町および牧園町で少 数の生息事例が報告されている(森田,1973). 1990 年代には生息範囲が減少していて,例えば 大隈地区では稀に見かける程度となっている(鮫 島,1997). 鹿児島県では個体数減少によるキツネの保護 と農林作物を荒らすノウサギの駆除のため,1976 年から狩猟禁止の対象になっている.最近の鹿児 島県内におけるキツネの情報として,2006 年 5 月 26 日に南さつま市金峰町池辺の農道でキツネ の事故死体が発見された(南日本新聞,2006). 2007 年 11 月 10 日に霧島市南部の中渡の道路上 でキツネの事故死体が発見された(末弘氏,私信). また,2008 年 5 月 26 日に日置市伊集院町下神殿 の茶畑で キツネが保護され,獣医の手当てを受 けて 6 月 2 日に放たれた(南日本新聞,2008). 上述のように,これまで断片的な報告事例しか記 録されておらず,本格的な生息分布の調査や生態 学的研究は皆無といってよい. そこで今回は,主に自動撮影装置を利用して, 生息の有無や活動状況を調べた.また,聞き込み 調査や鹿児島県森林整備課保護猟政係で 1996 年 から本格的に実施されている狩猟者のアンケート に基づくキツネ出会い数の調査資料を検討した. 加えて,鹿児島県大隈土木事務所道路維持管理課 (大隈地域振興局建設部)や加治木土木事務所道 路維持管理課(建設部)のパトロール日誌に記載 された交通事故死(ロードキル)に関する資料も 参考にした.