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鹿児島県薩摩半島で採集された九州沿岸初記録のカクレイワガニ(十脚目:短下目:イワガニ科)

是枝伶旺

Abstract / Introduction / Summary:

カクレイワガニGeograpsus grayi (H. Milne Edwards, 1853) はインド・太平洋の熱帯・亜熱帯域に広く分布する,甲幅40 mm ほどで紫色の陸棲カニ類である(酒井,1976;豊田,2019).本種の記録は低緯度域に集中しているが,九州以北からも散発的な記録が存在する(酒井,1976;和田,2022).本種は陸棲種であるが幼生は海域で生育するとされ( 吉郷・田村,2006;小菅, 2017;鈴木・西村,2023),国内では石垣島において5–8 月の夏季にかけて放幼が行われたとする記録がある(小菅,2017).   2023 年7 月9 日に鹿児島県南さつま市からカクレイワガニの轢死個体が採集された.近年の本種の記録には鹿児島本土や九州を含むもの(例えば,鈴木,2020;和田,2022),含まないもの(例えば,小菅,2017),和歌山や土佐湾以南とされ判断が不可能なもの(例えば,豊田,2019)があり,九州における本種の出現の有無について,統一的な見解が得られているとは言い難い.本研究において,鹿児島県本土や九州における本種の確かな記録は存在しないことが明らかとなった.したがって,薩摩半島産の個体は,カクレイワガニの九州における初記録と考えられたため,ここに報告する.