鹿児島湾北西部の白浜海岸から得られた絶滅危惧種イドミミズハゼ

鹿児島湾北西部沿岸は,姶良カルデラ壁により比高200 mを超える山崖の直下にあり(小林ほか,1977;坂梨・徳重,2022),約12 kmにわたり急峻な岩礁性海岸が続く(Fig. 1).この急峻な沿岸は水平方向に潮間帯があまり発達しないが,その北部にあたる姶良市脇元の白浜地区には,主に崩落や海蝕に由来するであろう岩礫が波によって吹き寄せられたものと考えられる,同地域最大の礫浜(本報では白浜海岸とする)が存在した(Figs. 1, 2).白浜海岸は鹿児島湾内において珍しい,潮下帯から潮上帯にかけて垂直方向にも連続する礫浜であり,部分的な多寡こそあれ,直径1–8 cmほどの礫が凡そ10 cm以上堆積した環境が広範囲に見られる.同所では稀種キマイラミミズハゼLuciogobius sp. 1 sensu Shibukawa et al. (2019) を始めとした5種のミミズハゼ属Luciogobius Gill, 1859やアカイソガニCyclograpsus intermedius Ortmann, 1894の様な,沿岸(潮間帯)の基質間隙を好む種の生息が知られていた(是枝ほか,2020a, b;是枝・本村,2021).
2023年3月11日に白浜海岸から2個体のイドミミズハゼLuciogobius pallidus Regan, 1940が採集された.本種は河川や海岸の地下水系に生息する特異な種で(渋川ほか,2019),鹿児島県では絶滅危惧1A類に指定されており(米沢・四宮,2016),鹿児島県本土では薩摩半島西岸の川内川および鹿児島湾奥部の清水川における生息のみが知られていた(米沢・四宮,2016;是枝ほか,2020a).鹿児島湾北西部の沿岸道路は大部分(約6割)が2車線道路であるが,北部と南部にはそれぞれ2 kmほどの1車線区間があり(2023年3月現在),その北部にあたる白浜海岸および周辺地域は現在,交通および防災の観点から国土強靭化工事に伴う鹿児島10号白浜地区の道路拡張工事の最中にある(坂梨・徳重,2022).その大部分は既に埋め立てられ(坂梨・徳重,2022: fig. 2; Fig. 2B),現存する400 mほどの区間も近く潮間帯の大部分が消失する.礫浜の生物多様性に関しては十分な評価がなされず,保全上の策が講じられることも少ないとされる(和田,2022).白浜海岸を含む姶良市は,鹿児島県の設定した鹿児島湾湾奥ゾーンとされ,施策に静穏な干潟や砂浜の保全が挙げられているものの,姶良市南部の岩礁性海岸や礫浜の自然環境に対する言及はなかった(鹿児島県,2018).本報は失われゆく白浜海岸における生物多様性の一端を記録するものである.