Abstract / Introduction / Summary:
ミナミコメツキガニ(Mictyris guinotae Davie, Shih & Chan, 2010)は,ミナミコメツキガニ科に属するカニで,底質中に含まれる有機物を摂食する堆積物食者である(山口,1976).本種はマングローブ林の発達した砂質干潟や砂質海岸に生息し,しばしば優占種となることから,物質循環において非常に重要な役割を果たすと考えられている.これまで,インドネシア,シンガポール,香港から台湾,及び日本の種子島以南に分布する種は,Mictyris brevidactylus Stimpson, 1858とされていたが(山口,1976),琉球列島に生息するものについて,形態学的・遺伝子学的な違いから,Mictyris guinotaeとして新たに記載が行われた(Davie et al., 2010).本種の分布北限域に近い奄美大島では,過去に山口(1976)が野外調査を行い,石垣島の平均サイズと比較して奄美大島(赤木名)のものが小型であることを報告しており,個体群間の変異が想定される.しかしながら,山口(1976)以降奄美大島での知見はなく,島内における本種の分布も明らかになっていない.一方で,種子島では,武田(1976)がミナミコメツキガニ(Mictyris brevidactylus)の生息を確認して以降,詳細な情報が一切ない状態である.そこで本研究は,本種の種子島・奄美大島における地理的分布について明らかにし,干潟間で個体群構造の比較を行うことを目的とする. 種子島産の個体は新種記載に用いられていないが,Davie et al. (2010)は,武田(1976)の報告をもとに本種は種子島にも分布すると記載しているので,ここではすべてミナミコメツキガニ(Mictyris guinotae)として扱うことにする.