Abstract / Introduction / Summary:
宇治群島は南さつま市笠沙町野間岬の南西約70 km(31°11ʹN, 129°27ʹE付近),甑列島の南方,草垣群島の北方に位置する無人島のみからなる群島である.群島を形成する主な島は宇治島(家島とも称される)と宇治向島(向島とも称される)であり,それらの周辺に小岩が散在する.かつては近海において捕鯨が試みられ(不和・花田,2011),さらに宇治島においてはウシの放牧がおこなわれたこともあったが(桑水流ほか,2003, 2004),現在はいずれの島も無人島となっており,近海において小規模な漁業,遊漁船による釣りがわずかにおこなわれるのみである.行政区画は南さつま市笠沙町片浦に属し,かつては大隅諸島の薩摩硫黄島,竹島,および黒島とともに「口五島」と称されたこともある(波多江,1955).
宇治群島における自然調査は鹿児島大学や鹿児島県立博物館の主導のもとにおこなわれ,これまで地質(波多江,1955;桑水流,2003, 2004),植物(廣森,2003),昆虫類(中峯,2004),貝類(行田,2002, 2003),鳥類(小倉・中間,2004)などに関して報告がおこなわれている.哺乳類に関しては上述の通りかつてウシの放牧がおこなわれ,それらは全て死滅したとされる一方で(桑水流ほか,2003, 2004),人為的に持ち込まれたと思われるカイウサギの野生化が確認されている(廣森,2003).また,陸貝類に関しては宇治群島固有の種が多数報告されている(行田,2003). 宇治群島近海における魚類相調査は従来ほとんどおこなわれておらず,山下ほか(2012)が同群島産の軟骨魚類を報告したものや,畑ほか(2015)が宇治島から得られたモヨウモンガラドオシMyrichthys maculosus Cuvier, 1816を報告したものなどがあるに過ぎなかった.しかし,Motomura et al. (2016)によって包括的な魚類相調査がなされ,70科153種が報告された.その後,宇治群島近海からはシキシマハナダイCallanthias japonicus Franz, 1910(畑ほか,2015)とキビレカワハギThamnaconus modestoides (Barnard, 1927)(畑・本村,2017)の2種が標本に基づき報告されており,現在宇治群島近海からは計155種が記録されている.さらなる魚類相調査の進展により,これまで宇治群島から記録のなかったアカムツDoederleinia berycoides (Hilgendolf, 1879),ナガオオメハタMalakichthys elegans Matsubara and Yamaguti, 1943,およびゴイシウマヅラハギThamnaconus tessellatus (Günther, 1880)の3種が得られたため,ここに報告する.