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鹿児島湾桜島袴腰の転石海岸におけるムラサキクルマナマコの生活史

原井美波・冨山清升

Abstract / Introduction / Summary:

鹿児島市桜島の袴腰海岸にはムラサキクルマ ナマコ Polycheira rufenscens (Brandt) が生息してお り,このムラサキクルマナマコのサイズ頻度分布 と性比の季節変化を 2010 年 12 月から 2011 年 12 月の一年間追うことによって,鹿児島市桜島袴腰 海岸に生息するムラサキクルマナマコの繁殖の起 こる時期と,個体の体の大きさと性別の相関関係 の有無を明らかにした. サイズ頻度分布調査は,ムラサキクルマナマ コを毎月 100 匹以上調査地で採集し,体長と体幅 を測定してその体積を算出した.頻度分布は一年 間どの月でも似た山の形となり,新規加入と推測 される個体の山は確認されなかった. 性比については,各月 40 匹程度の個体を解剖 して顕微鏡による生殖巣の観察を行い,卵の確認 できたものを雌,卵の確認できなかったものを雄, 生殖巣自体が判別できなかったものを判別不能と して処理した.各月の性比を比較すると,6月に 雌の比率が急激に増加し 8 月まで雌が存在した が,その他の月では雌は見られなかった.また, 生殖巣の発達については 4 月から 8 月にかけての 期間が顕著であり,それ以外の月では萎縮しほと んどが判別不能であった. サイズ頻度分布の季節変動については新規加 入が見られなかったため,体の小さい成体は生息 地が他の個体と異なると提案された.また,季節 変動も無かったことから性別と体の大きさには相 関関係がないと言える.性比については,4月か ら8月にかけて生殖巣が発達し,4 月から 5 月に かけて成熟した雄が増加していることから,この 雄の一部が性転換することで 6 月に雌が出現した と考えることが可能である.6 月に雌が出現し, 9 月にはほとんどの個体が放卵・放精を終えたと 考えられるため,6 月から 8 月の間が桜島袴腰海 岸における本種の繁殖期であると言える.