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口永良部島の火砕流跡地でのアリ相調査

金井賢一・山根正気

Abstract / Introduction / Summary:

南九州ではカルデラを形成するような大噴火 がしばしば起こってきた.大噴火にともなう火砕 流の発生は,その規模にもよるが生物相に大きな ダメージを与えてきた.とくに加久藤火砕流(約 33 万年前),阿多テラフの噴出(約 11 万年前), 入戸火砕流(約 2.5 万年前),幸屋火砕流(約 7300 年前)は南九州の生物相に甚大な被害をも たらしたと考えられる(町田・森脇,2001).現 在の生物相はそうした破壊の生き残りとその後の 移入種によって形成されてきたと考えられる.そ のため,噴火後どのように生物相が変化するかと いう視点は,南九州の生物相成立を解明する意味 でも重要である. 南九州では上述のような大噴火以外にも,地 域の生物相に限定的なダメージを与える小・中規 模な噴火はしばしば起きている.桜島の噴火はそ の代表例で,歴史に残る主要な噴火で形成された 異なった年代の溶岩原には,現在でも異なった生 物群集が見られる(Tagawa, 1964;田川,1973; 原田ほか,2008).2011 年に起こった,南九州霧 島山系の新燃岳噴火による火砕流跡地は現在も立 ち入りが禁止されており,その後の生物相の回復 については詳細な調査はなされていない.降灰の 有無で「えびの・大浪池方面」と「高千穂河原・ 御池方面」に分けて地域別にガ類を比較した際に は,噴火の影響により大きな差が生じたとは考え られず,したたかに噴火を乗り切っているという 結論を得た(福田・金井,2016). 口永良部島は屋久島の北西約 12 km に位置し, 北琉球の大隅諸島に属する火山島である(図 1). 1980 年の噴火を最後に静穏であったが,2014 年 8 月 3 日に新岳山頂が噴火した.このときの火砕 流は火口を中心にした狭い範囲に限定された.し かし,2015 年 5 月 29 日にさらに規模の大きい噴 火が発生し,火口からほぼ全方向へ火砕流が広 がった.この噴火では西・北西方向に走流したも のは海岸部の向江浜までが到達し(産業技術総合 研究所,2015a;図 2),また南西方向では海上を 1 km ほど進んだ(産業技術総合研究所,2015b). この噴火で全島民が 2015 年 12 月まで半年間島外 に避難を余儀なくされた. 島嶼において火山活動の影響を受けた地域で の生物相変化は,インドネシアのクラカタウ諸島 における調査が有名である.クラカタウ諸島では 1887 年 8 月 27 日の大噴火で全域が厚い火山噴出う研究が行われてきた(湯川,1989a, b; Thornton, 1996; Tagawa, 2005).口永良部島の噴火はこれに 較べはるかに規模が小さく,島内のごく一部が火 砕流や火山ガスにさらされたのみで,火山灰の堆 積も少なかった.しかも,今回の火砕流は 100– 400˚C と通常の火砕流にくらべ低温であった(産 業技術総合研究所,2015a).そのため,隣接地か らの生物の再移住は陸伝いに可能であり,また火 砕流を生き延びた生物の存在も想定された.クラ カタウの事例とは大きく異なるが,自然災害に生 物相がどのように応答するかを調べる貴重な機会 である. 著者らは 2016 年 4 月から 10 月にかけて 3 回 調査に入り,火砕流跡地である向江浜とその周辺 でアリ相を調査し,比較した.まだすべてのデー タの解析が終わっていないため,本稿では調査結 果の概要を予報的に述べるにとどめる.