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鹿児島県桜島袴腰海岸におけるゴマフニナの生活史— 精子と卵子の形成季節と性比の検討—

山角公彦・冨山清升・吉本 健

Abstract / Introduction / Summary:

ゴマフニナPlanaxis sulcatus (Born, 1778)は,盤足目ゴマフニナ科に属する巻貝で,房総半島以南,インド,西太平洋域に分布し,潮間帯下部の岩礁上に生息している.本種の生態に関する研究例はまったくない.本種がどのような生活史を持つのかほとんど分かっていない.このため,本研究では鹿児島県桜島袴腰海岸において,ゴマフニナの生活史を明らかにすることを目的とした. 2010年12月~2011年12月まで,毎月大潮時に鹿児島県桜島袴腰海岸の潮間帯で50 cm × 50 cmのコドラートを用いて,3か所でサンプルを採取し,ノギスを用いて殻長を測った.持ち帰ったサンプルは,冷凍保存しておき,2011年5月~2011年12月の各サンプルの中から,ランダムに20個体を選び,光学顕微鏡を用いて雌雄の性比を調査した.2011年6月~2011年8月において,繁殖期におけるメスとオスの殻長平均値の差を調査するために,独立変数を雌雄,従属変数を殻長とし,t検定を行った.サイズ頻度分布から,夏にかけてグラフのサイズピークが大型サイズへ移行していることがわかった.また,2011年10月と2011年12月には新規個体群と思われるサイズの小さな個体群が確認できた.生殖腺観察から,6月,7月,8月にかけて精子が見られた.その他の月では,卵子が観察されるか,配偶子がまったく観察されなかったかのどちらかであった.t検定より,雌雄間での殻長差に有意性がないことが分かった.本種は,生殖腺観察から精子が確認できたのは6–8月の間だけだったことから,この時期に生殖を行なっていると思われる.その後,10月くらいから,新規個体群が加入してくる.11月のサイズ頻度分布に小さな個体群が見られないのは,調査時の見落としなどのサンプリングエラーよるものだと思う.精子が見られない時期での,卵子の確認,9月が卵子だけ確認できたことは,精巣と卵巣の成熟のタイミングが異なることや,雌雄の生息域が異なることでメスだけが採取された,また時期によって雌雄間で性転換が行われる可能性がある.