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鹿児島県桜島袴腰海岸におけるクジャクガイSeptifer bilocularis (Linnaeus, 1758) の生活史調査 — 殻の外部生長線解析に基づく年齢推定—

前園浩矩・冨山清升

Abstract / Introduction / Summary:

クジャクガイSeptifer bilocularis (Linnaeus, 1758)はイガイ目イガイ科の二枚貝で,房総半島・能登半島以南,熱帯インド・西太平洋の潮間帯から水深10mまでの岩礁に分布する.クジャクガイの生態はこれまでほとんど研究例がない.そのため,本研究では本種の基礎生態についてサイズ頻度分布と年齢構成,年齢頻度分布を調査し,生活史を明らかにすることを目的とした.調査は鹿児島県鹿児島市桜島袴腰海岸の潮間帯中部の下で行った.2008年2月から2009年1月にかけて毎月1回大潮の干潮前後に50 cm × 50 cmのコドラートを3ヶ所設置し,コドラート内のイガイ類を全て採集した.採集した個体は冷凍した後分類し,ノギスを使って殻長を0.1 mmまで計測し,1 mmあたり2個体ずつ肉眼または顕微鏡を使い年輪解析を行った.クジャクガイ以外のイガイ類は個体数が少なかったため,本調査では除外した. サイズ頻度分布から,3.0 mm以下の新規加入個体は6月から10月にかけてだと推定された.2–5月は21.1–27.0 mmにピークが出る一山型のグラフになり,6–11月は12.0 mm以下の割合が増えて多山型に,1月は2–5月と同様の一山型のグラフになった.サイズ頻度分布には1年周期の周期性が見られた.サイズピークは21.1–27.0 mmに出ることが多かった.この結果と,同じイガイ科のDreissena polymorphaが3–4 mmに達するには産卵から定着まで18–28日を要し,定着からさらに1ヶ月を要することから,新規加入個体は4月下旬から9月中旬に産卵された個体だと考えられる.年輪解析の結果,殻長は年齢に有意に相関を示した.6歳以上は個体数が少なく,あまり見つからなかった.年齢が一定以上になると成長率が落ちているように見えるが,この調査結果からは断定できない.新規加入個体が採集された6–11月は,0歳の個体が他の月に比べて大きな割合を示した.0歳の個体はほとんどが9.0 mm以下で見つかった.サイズ頻度分布のピークは何れかの年齢のサイズ頻度分布のピークと重なることが多かった.年齢頻度分布には1年周期の周期性が見られた.6月に6.1–9.0 mmの0歳の個体が見つかったことについて,Dreissena polymorphaの例から,産卵は2月下旬か3月上旬に開始されているか,前年の産卵期の終盤に産卵された個体が,年輪が確認できない大きさで越冬した可能性がある.多年生であるクジャクガイのサイズ頻度分布に複数のピークが生じにくく,3歳までは年齢が上がるほど個体数が多く,4歳以上では年齢が上がるほど少なくなるのは,年齢とサイズによって定着のしやすさ,そして生存率に差があるためとだと考えられる.