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奄美大島笠利湾手花部干潟におけるミドリシャミセンガイの干潟内分布と底質環境

藤井椋子・上野綾子・山本智子

Abstract / Introduction / Summary:

腕足動物門舌殻亜門舌殻綱シャミセンガイ目 に属するシャミセンガイ科は先カンブリア代後期 に地球上に出現した動物であり,それ以来ほとん ど形態を変化させずに生き延びていることから, 生きた化石とも呼ばれている.現在シャミセンガ イ科は干潟の減少や海洋汚染によって減少してい る.シャミセンガイ科の一種であるミドリシャミ センガイ(Lingula anatina)については,現在あ る程度の規模の個体群が保持されている生息地は 有明海,八代海,奄美大島の笠利湾などに限られ ており,奄美市では「希少野生動物」に指定され る.しかし,絶滅が危惧されているにも関わらず, 生活史や分布要因が明らかにされておらず青森県 浅虫において殻長 25 mm で成熟する(芥田 1995)ことが明らかになっている程度である. 緒方(2013)が笠利湾手花部干潟において底 生生物相を調査したところ,ミドリシャミセンガ イは潮間帯下部の特に粒度が細かい場所で多く出 現しており,同一干潟内でも特徴的な底質を持つ 場所に集中分布している可能性がある.また,倉 持(2002)は同じく手花部干潟において本種のサ イズ組成を調査し,平均高潮線から潮間帯下部に 向かうに従い個体の殻長が大きくなることを明ら かにしている.しかしながら,干潟内の分布と底 質環境の関わり,密度やサイズの季節変化は調査 されていない.そこで本研究では奄美大島笠利湾 手花部干潟においてミドリシャミセンガイの分布 決定要因及び平均分布密度とサイズ組成の季節変 化を調査するとともに,本種の分布に影響を与え る底質環境を明らかにすることを目的とした.