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希少種フジジガバチ(ハチ目:アナバチ科)の九州における 生息環境について

河野太祐・山元宣征

Abstract / Introduction / Summary:

フジジガバチ Ammophila atripes japonica Kohl, 1906(図 1–2)はアナバチ科の有剣ハチ目昆虫で, メスの体長は 30 mm 前後,オスではやや小型で 25 mm 前後である.メスは脚部と腹部第 1,2 節 の大部分が赤く(腹部第 3 節以降は淡い藍色金属 光沢を帯びた黒色),オスは全身が淡い藍色金属 光沢を帯びた黒色であることから,日本国内に分 布する同属他種から区別できる.日本中南部以南 から琉球,朝鮮半島,東南アジア,オーストラリ アにかけての広い範囲に分布するが,日本本土で は,以前より分布が局所的で稀な種であり,近年 の記録は少ない.また,土地開発による生息地の 消滅などの理由によって,2013 年現在,福井県, 埼玉県,東京都,神奈川県,高知県のレッドリス トに掲載され,絶滅が危惧されている. 近年の九州におけるフジジジガバチの分布記 録は長崎・佐賀県にまたがる大野原(おおのばる) 高原と,鹿児島・宮崎県にまたがる沢原(さわら) 高 原 の 2 か 所 に 限 ら れ( 今 坂,2009; 山 元, 2011;長利・長利,2012),その分布は局所的で あり,生息域を限定する何らかの要因があると考 えられる. ここでは,両生息地の環境と,筆者らが生息 地で観察した本種の生態的知見について報告し, 本種の減少理由についても若干の考察を行う.