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上甑島汽水湖群の魚類相およびニクハゼ Gymnogobius heptacanthus(スズキ目ハゼ科)の記録

松沼瑞樹・米沢俊彦・本村浩之

Abstract / Introduction / Summary:

甑島列島は九州南部の薩摩半島西岸沖に位置 し,上甑島,中甑島および下甑島の 3 つの主島と その周辺の属島からなる全長約 40 km の列島であ り,上甑島の北東海岸には海鼠池,貝池,鍬崎池 および須口池の 4 つの汽水湖が密集しており特異 な潟湖群を形成している(荒巻ほか,1976;Fig. 1). 甑島列島の陸水域の魚類相について,鹿児島 県の淡水魚類相を報告した小川(1937)は 5 種の 淡水魚類を甑島列島から記録したが,具体的な島 名や河川名などは記載されなかった.平田(1974) は上甑島の汽水湖群の景観を述べ,魚類相につい ても若干の報告をした.林(1976)は上甑島の陸 水域から 13 種の淡水魚類を報告し,海鼠池でみ られる魚類についても若干の記述をした.柿本 (1979)は上甑島および下甑島の淡水魚類相を報 告し,須口池から “ ボラ ” および “ チチブ ”(と もに学名の記載なし)を記録した.近年では,池 (1995)により上甑島の河川から 32 種の淡水魚類 が記録された.以上のとおり,上甑島の河川域の 魚類相は比較的よく知られているが,同島の汽水 湖群の魚類相に関する報告は少ない. また,ハゼ科ウキゴリ属(Gobiidae: Gymnogo- bius)魚類は 13 種が有効種と認められ,日本に は そ の 全 て と 複 数 の 学 名 未 詳 種 が 分 布 す る (Akihito et al., 2002;Stevenson, 2002;鈴木・渋川, 2004). そ の う ち, ニ ク ハ ゼ G. heptacanthus (Hilgendorf, 1879) は日本,朝鮮半島から黄海沿岸 にのみ分布する東アジアの固有種で(Stevenson, 2002),国内では北海道から九州までの日本海・ 太平洋側,瀬戸内海,および対馬列島に分布する (Akihito et al., 2002;鈴木・渋川,2004).しかし, 鹿児島県におけるニクハゼの分布は不明であり文 献上で確実な記録は無く,これまでの第 2 著者に よる鹿児島県の九州沿岸における汽水魚類相の調 査でも本種の採集記録はなかった(米沢,未発表). 2008 年 6 月に行われた野外調査,および鹿児 島県立博物館の所蔵標本の調査から上甑島の 4 つ の汽水湖から 10 科 17 種の魚類が確認された.ま た,これまでに甑島列島から記録のなかったニク ハゼが海鼠池と貝池から記録され,上甑島が国内 における本種の分布南限にあたる可能性が高い. そのため,分布情報の蓄積を目的としてニクハゼ の記録を含む上甑島の汽水湖群の魚類相調査の結 果を報告する.