徳之島におけるイボイモリ Tylototrion andersoni の生態と ロード・キルの保全対策(岡崎幹人・中村麻理子・鮫島正道)
イボイモリ Tylototrion andersoni (Boulenger, 1892) は奄美諸島と沖縄諸島の固有種で,一年を通して 湿潤な底質を備えた林床や草地に生息し,林内の 池沼や水溜りを利用して繁殖する両生類である. 多くの地域で,森林伐採や土地造成にともなっ て生息地となる環境が縮小し,生息環境は急激に 悪化している.さらに生息地の道路では,ロード・ キルが頻発しているのが現状である.ロード・キ ル(road kill)とは,道路上で野生動物が自動車 にはねられて死亡する事故をいう. 本報告では,徳之島に生息するイボイモリの生 息地の現況とその動向をさぐるとともに,存続を 脅かしている大きな原因の一つ,ロード・キルの 問題を抽出・分析し,対象地の道路建設等に対し, ロード・キル防止のための保全対策を備えた計画・ 設計・施工を実施してもらうことを目的とした. イボイモリの分類・形態・分布・生活史・生態 等の一般的な記載は,中村・上野(1963),千石 (1979),森田(1989),宇都宮(1998),太田(2003) の記載がある.著者による徳之島のイボイモリの 観察は 1984 年に始まり,概要を鮫島(1985), (1993),(1995),(1998),(1999) に 報 告 し た. また,イボイモリの飼育下繁殖については鮫島 (1996)がある. 国内における本種の分布状況は,琉球列島中央 部の奄美大島,徳之島,沖縄島,瀬底島,渡嘉敷 島に分布する.徳之島はこれらの島々の中では最 も個体数が多い. イボイモリは「生きた化石」ともいわれ,古い 時代の生き残りとしての希少性が高い.また,本 種は生物地理学的・分類学的に高い学術的価値が 認められることから,鹿児島県ならびに沖縄県の 天然記念物に指定されており,採集や飼育は法律 で禁止されている.さらに,本種は絶滅の危機に 瀕していることから「日本の絶滅のおそれのある 野生生物」:レッドデータブックに掲載され,環 境省カテゴリーでは絶滅危惧Ⅱ類,鹿児島県カテ ゴリーでは絶滅危惧 I 類に位置づけられている重 要種である.
徳之島におけるイボイモリTylototrion andersoniの生態と ロード・キルの保全対策(岡崎幹人・中村麻理子・鮫島正道)