Abstract / Introduction / Summary:

世界中の温帯・熱帯海域に広く分布するマンボウ属Molaは,フグ目マンボウ科Molidaeに属し,本属各種は混同されてきた長い歴史をもつ(Sawaietal., 2017, 2020; Sawai and Nyegaard, 2023).特にマンボウMolamola (Linnaeus,1758)とウシマンボウMola alexandrine (Ranzani,1834)の2種は全長3.3m以上もの巨体になり,日本近海にも出現する(Sawai et al., 2017, 2020).両種は全長約1.6m以上の個体において,頭部の隆起の有無,下顎下部の隆起の有無,舵鰭縁辺部の形状,胸鰭後方の体表にできる盛り上がったシワの有無などの形態的特徴によって外観的に識別可能である(Sawai et al., 2017;澤井,2021).
小笠原諸島近海は,マンボウとウシマンボウの識別が可能になった時代以降は,ウシマンボウしか確認されていない特異的な海域である(澤井,2024).例えば,小笠原諸島近海に出現するマンボウ属の学術的な記録をまとめた澤井(2024)以降,新たに情報が得られたFig. 1個体(動画の切り抜きなので画質は悪い)も,明瞭に波打っていない舵鰭縁辺部(Fig. 1A矢印),少し隆起した頭部(Fig. 1B矢印),胸鰭後方の体表に盛り上がったシワが無いこと(Fig. 1B赤い円)が確認されたことからウシマンボウと同定された:2024年8月6日,父島の東沖,ムロアジDecapterus muroadsi (Temminck and Schlegel, 1844)を餌にしたたて縄漁法で釣獲(口の中に針が掛かっている),目視による推定全長1.2–2 m,気象庁(2025)から読み取った漁獲日・漁獲場所周辺の海面水温30–31°C.
これまで小笠原諸島近海で明確なマンボウの出現記録は見つかっていなかった(澤井,2024).しかしこのたび,2025年2月中旬に小笠原諸島近海でマンボウが撮影され,本海域にも本種が出現することが明らかとなったため,確かな記録としてここに報告する