Abstract / Introduction / Summary:
日本近海に出現するフグ目マンボウ科Molidae の魚類は,クサビフグRanzania laevis (Pennant, 1776),ヤリマンボウMasturus lanceolatus (Liénard, 1840),マンボウMola mola (Linnaeus, 1758),ウシマンボウMola alexandrini (Ranzani, 1834) の4 種である(波戸岡・萩原,2013;澤井,2017).国内におけるこれら4 種は一般的に種判別が行われず単に「マンボウ」と一括りにされて漁獲データが取られており(澤井,2021b),また外観が類似するマンボウとウシマンボウとヤリマンボウの3 種は特に混同されやすく,スーパーマーケットや鮮魚店では一般的に「マンボウ」として展示・販売されている(澤井,2024).
ヤリマンボウはヤリマンボウ属Masturus に属する大型魚類で,下顎が上顎よりわずかに前方に突出すること,マンボウ属Mola より体型が鶏卵に似た卵形であること,舵鰭(尾鰭に見える部位) の中央よりやや背側が後方に突出することなどの特徴からマンボウ科他種と形態的に識別可能であるが(波戸岡・萩原,2013;松浦,2017;澤井, 2017),上述のような背景から本種の識別方法は一般的に普及しているとは言い難い状況にある. また本種の舵鰭突出部の著しく短い個体はマンボウ属と間違われやすく(山田・工藤,1997;澤井, 2024),加えて日本近海における本種の漁獲はマンボウ属より稀であることも合わさり(相良・小澤,2002;松浦,2017),本種の存在が一般的に知られていない要因になっている. 日本近海におけるヤリマンボウは青森県から沖縄県まで散発的に記録されているが(例えば, 波戸岡・萩原,2013;澤井,2020),上述のような状況から,未だに未記録地や長期間学術的な報告がない都道府県がある.このたび,本種の日本近海における出現記録を調査する中で,香川県初記録のヤリマンボウと考えられる個体の情報が得られ,瀬戸内海における本種の稀有な出現記録にもなると考えられたため,ここに報告する.