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ヤリマンボウにおける京都府からの確かな記録と伊豆諸島北部海域産個体でみられた舵鰭突出部の個体変異

澤井悦郎

Abstract / Introduction / Summary:

ヤリマンボウMasturus lanceolatus (Liénard, 1840) は世界中の温帯・熱帯海域に広く分布し,フグ目マンボウ科Molidae ヤリマンボウ属Masturus に属する大型魚類である(波戸岡・萩原,2013;松浦,2017; Sawai et al., 2020).本種は外観が似ているマンボウMola mola (Linnaeus, 1758) やウシマンボウMola alexandrini (Ranzani, 1834) と混同されることが多く,スーパーマーケットや鮮魚店ではよく「マンボウ」としてディスプレイされたり(Fig. 1),販売されたりする.しかし,本種は舵鰭(尾鰭に見える部位)の中央よりやや背側が後方に突出すること,下顎が上顎よりわずかに前方に突出すること,マンボウ属Mola より鶏卵に似た卵形の体型であることなどの特徴から形態的に識別可能である(波戸岡・萩原,2013;松浦,2017; Sawai et al., 2020).
 日本近海におけるヤリマンボウは青森県から沖縄県まで散発的に記録されているが(波戸岡・萩原,2013;澤井,2020),マンボウ属と比較して漁獲が稀であるため(松浦,2017),未記録地や長期間学術的な報告が行われていない都道府県がある.
 このたび,2024年11月に京都府近海と伊豆諸島北部海域でヤリマンボウが漁獲された.筆者が調べた限りでは,京都府近海からの本種の記録は220年以上学術的な報告が行われていなかったため,ここに今世紀での確かな記録として報告する.また,伊豆諸島北部海域からは本種の舵鰭突出部の長い個体と短い個体が同所的に漁獲され,稀有な事例になると考えられたため合わせて報告する.