Abstract / Introduction / Summary:
鹿児島大学理学部前にある林園の池は,地下 水からのくみあげ水が溜まっているために,温度 がほぼ 1 年中一定であるが,冬季の水温は 10℃ 以下になる.池には,外来種である淡水性腹足類 貝類であるサカマキガイとインドヒラマキガイが 同所的に生育し,1 年を通して観察できる.この 2 種の貝の生活史について調査した. サカマキガイ(physa acuta)は,サカマキガイ 科の貝で淡水産であり,ヨーロッパからの外来種 である.生命力が強く,全国から報告があり,分 布が拡大傾向にあるといわれる.また,環境の変 化に強いことに加え,鋭い歯をもち,主に雑食性 であるが,他種軟体動物を摂食することもあるた め,同棲在来種を駆遂してしまうとの報告もある. インドヒラマキガイ(Indoplanorbis exustus)はヒ ラマキガイ科の貝で淡水産であり,東南アジアか らの外来種である.また,本種は有肺類に属し雌 雌雄同体である.本種は,寒さに弱く繁殖力は強 い方ではなく寿命は 1 年とされている.主に室内 の水槽では生育するが,日本においては野外では 越冬し得ないとされている.九州からの報告では, 最低水温が 15 度以上の場所では生育するという 報告がある. 本種の生活史調査は,月別の定期調査法を用 いた.なお,定期調査は,2003 年 1 月~ 12 月に行っ た.水槽内の表面に浮いている枯葉の裏に付着し ているサカマキガイ,インドヒラマキガイ 2 種を 約 50 個体ピンセットで採集して実験室に持ち帰 り,2 種の個体をそれぞれ,ノギスと顕微鏡を用 いて,0.1 mm 単位まで測定し,記録した.その 記録をもとに,2 種の殻幅サイズの頻度分布と季 節変動をグラフで示した. サカマキガイは,過去の研究結果において,産 卵の最盛期は夏季で,繁殖力が強く,ほぼ冬季を 除いて 1 年中産卵し,寿命は1年とされている. 鹿児島大学林園の池に生育するサカマキガイは, 本研究の結果から,産卵の最盛期は夏季で,冬季 を除いて 1 年中産卵していること,寿命は約1年 ということがわかった.インドヒラマキガイは, 過去の研究結果において,室内の水槽では生育す るものの,一般に野外では越冬し得ないが,低温 の適応性から将来的には野外で越冬する可能性が あり,外来種として注意が必要とされていた.鹿 児島大学林園の池に生育するインドヒラマキガイ は,本研究において,冬を除き 1 年中産卵してお り,産卵の最盛期は夏季であることがわかった. さらに,越冬し複数年に渡って,生きている個体 も存在しているということが明らかになった.従って,過去の研究例と比較すると,インドヒラ マキガイは九州では,15 度以上の暖かいところ でしか生育してないという報告があったが,鹿児 島では,低温に適応し,越冬できる個体が出現し ているということが判った.今後,この種の分布 拡大に関しては,注意が必要だろう.