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薩摩半島から得られた九州沿岸初記録のキンチャクガニ(十脚目:短尾下目:オウギガニ科)

是枝伶旺・佐藤智水

Abstract / Introduction / Summary:

キンチャクガニLybia tessellata (Latreille in Milbert, 1812) は甲背面に赤色域と淡色域からなる石垣模様,赤褐色の胸脚には黒褐色の縞模様が特徴的なオウギガニ科の小さなカニであり(酒井,1976;武田,1982;峰水,2000),日本国内においては伊豆諸島,小笠原諸島,和歌山県,およびトカラ列島以南の琉球列島から記録されている(酒井,1976;武田,1982;奥谷,1994; 平林,2015; Sasaki, 2019).本種は鉗脚でイソギンチャクを挟んで保持する生態が知られており,鉗脚の咬合部は小歯がカエシ状に並ぶことでイソギンチャクを握ることに特化した形態となっているが,鉗脚を犠牲にしてイソギンチャクを保持する理由については十分に明らかとなっていない(柳・岩尾,2012). 2024年1月13日に九州南部の鹿児島県薩摩半島南岸から4個体のキンチャクガニが採集された.また,2022–2023年に屋久島と平島の沿岸における本種の生息が水中写真から確認された.薩摩半島産の個体は,キンチャクガニの九州沿岸からの初記録と考えられたためここに報告すると共に,文献ベースでの知見に乏しい本種の鹿児島県における出現状況を補完する目的で,各水中写真についても紹介する.