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私は鹿児島県の自然形成史が知りたい

Abstract / Introduction / Summary:

私たちが現在,生活している身のまわりの環境はほとんどが人工物あるいはヒトが作り替えた自然であるが,3万8000年前ヒトがここに来た時は,100%が自然環境であったろう.それはどんなものだったのか.そして,それがどのような変遷を経て今日に至ったのか……私が知りたいのは,この素朴な疑問への答えである.どこまで分かっているのだろうか.実は,最初はそんな大それたことでなく,どうして,ここに,こんなチョウがいるのだろう……というチョウ相の成立史を解きたかった.

しかし,これを解くには,大もとになる地史,気候の変遷史,植物相の形成史,さらにこれに依存する動物相の変遷史,そしてヒトによる撹乱史の知見がいる.事実は一つしかないはずであるが,これらは皆,過去の出来事で,その事実の完全正解は分からない.それでも,ヒトは“歴史”という思考過程を拓いてきた.

なぜ,ヒトはそれほどまでして,過去を知ろうとするのか.これには多様な答えがあるだろうが,いろいろ推理して“楽しむこと”もその一つと思う.歴史を過去の謎々を推理するゲームとして,何らかの“答え”を出して落ち着く.いくらかの不安が解消する.そして,これで未来への対応が出来る.私もこの謎解きを楽しみたい.いや,そんな呑気なことでなく,私は近年のヒトの生活の自然離れを心配している.ヒトがとくに身近な自然に無関心になっていないか.それでも健全な生活が出来ればそれでよいかも知れないが,それが,自然とくに動植物への対応の仕方を誤らせることにならないか.個人の生活や学校の教育,そして行政の施策を間違わせているのでないか.どうしてよいのか,分からないままでよいのか.

日本列島の自然史は,例えば国立科学博物館編の「日本列島の自然史」(国立科学博物館,2006)などがあり,鹿児島県の歴史も,ヒト,気候,植生,動物相などについてかなりの記述がある.インターネットを駆使すれば,最新の情報も得られる.チョウ相の形成史も,全国的には日浦(1973),白水(1985)などがあり,本県については,私は現存するチョウの分布,周年経過,生活史などを70年余りかけて調べたので,かなりのことが分かったつもりで,拙著「チョウが語る自然史―南九州・琉球をめぐって―」(福田,2020)を出した.これは初めての本県自然史であるかも知れない.私はこれでいくらかの問題点,課題を提示したつもりだった.とくに,ヒトによる撹乱史は,戦前,戦中,戦後の農業や子供の遊びなどを自分の体験をもとに記述した.ちなみに,私は志布志小学校(國民学校)2年生12月から6年生の夏休みまでが太平洋戦争だった.

しかし,私の書き方がまずかったのか,自然の理解には,やはり“ある程度の体験”が必要なのか,その後,期待したほどの反応はない.あるいは私が気づかないのかも知れない.ここはご教授を期待し,お叱りも覚悟いや楽しみにして駄文を草することをお許し頂きたい.