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水槽内で観察されたニセゴイシウツボの産卵前行動

大西 遼・佐久間夢実

Abstract / Introduction / Summary:

ウツボ科魚類の産卵行動については,これまでにいくつかのところで報告がある.三宅島ではウツボGymnothorax kidako (Temminck and Schlegel, 1846)とホシキカイウツボUropterygius sp. sensu Hatooka, 2000の産卵行動が確認されており,前者はペアが尾部をゆるく絡ませながら腹部を押しつけ合い産卵し,後者は1個体のメスに3個体のオスが群がる産卵直前と思われる行動が確認されている(Moyer and Zaiser, 1982).フィリピンでは,G. herrei Beebe and Tee-Van, 1933が1個体のメスに7個体のオスが群がり,メスの腹部に噛みつき上昇する産卵行動が確認されている(Ferraris, 1985).相模湾では,トラウツボEnchelycore pardalis (Temminck and Schlegel, 1846),コケウツボE. lichenosa (Jordan and Snyder, 1901),およびウツボで吸水卵を有する産卵直前の個体がペアを形成している様子が確認されている(大森ほか,2022; Oomori et al., 2022).館山湾と新江ノ島水族館の水槽内ではウツボの産卵行動が観察されており,オスがメスの上顎を咥えて上昇し,ペアで産卵する様子が確認されている(Oomori et al., 2024).他にも,水槽内でアセウツボG. pictus (Ahl, 1789)とサビウツボG. thyrsoideus (Richradson, 1845)の産卵行動が詳細に観察されており,いずれもオスがメスの上顎を咥えて上昇し,ペアで産卵することが報告されている(Loh and Chen, 2018).
 ニセゴイシウツボGymnothorax isingteena (Richardson, 1845)は,韓国,日本からインドネシアにかけての西太平洋に広く分布し(Allen and Erdmann, 2012; Smith, 2012; 波戸岡,2013),日本国内では八丈島,伊豆半島以南の太平洋沿岸から琉球列島にかけて記録されている(波戸岡, 2013; 本村,2024).本種は観賞魚として人気が高く,多くの水族館で飼育展示されている(小枝,2018).一方で,本種の生態についてはほとんど分かっておらず,産卵に関する知見はこれまで得られていない.
 今回,串本海中公園センターで飼育されている2個体のニセゴイシウツボを観察したところ,産卵前行動が確認された.これまで本種の産卵行動に関する報告はないため,生態的知見の蓄積のためここに報告する.