Abstract / Introduction / Summary:
タナゴ亜科魚類AcheilognathinaeのアブラボテTanakia limbata (Temminck and Schlegel, 1846)は,日本固有種であり,濃尾平野以西の本州,淡路島,四国の瀬戸内海側,九州の北中部,および長崎県の壱岐島と福江島に自然分布する(佐土・松沢,2011;武内,2019;北村・内山,2020).本種は鹿児島県における唯一の在来タナゴ亜科魚類であり,県内北薩地域で「シビッチョ」の地方名が知られ,出水市の米ノ津川,小次郎川,および江内川,阿久根市の折口川と高松川から記録されている(山村ほか,1969;柳,1975;君塚,1976;鹿児島の自然を記録する会,2002;稲留・山本,2008, 2012;米沢・四宮,2016a).アブラボテは日本産のタナゴ亜科魚類の中では比較的広域に自然分布しており個体数も多いため,希少種の多い日本産タナゴ亜科魚類の中では比較的低い環境省レッドリストのランク「準絶滅危惧(NT)」に位置付けられているが(北村・内山,2020;環境省,2020),本種の分布南限域となる鹿児島県では北薩地域の5河川のみと生息地が限られており,河川環境の変化等の理由により個体数が減少傾向であるため,鹿児島県レッドデータブック2016の鹿児島県カテゴリーでは絶滅危惧II類に指定されている(米沢・四宮,2016a).また,本種は本来分布していない東日本に導入され,国内外来魚として定着している地域も知られている(佐土・松沢,2011;北村・内山,2020). 2022年8月にこれまでアブラボテの分布が記録されていなかった鹿児島県の北西部に位置する川内川水系で本種7個体が採集された.その後,追加調査を実施したところ2023年5月にも本種4個体が採集された.川内川水系におけるアブラボテの出現は国内の他の地域から導入されたものと考えられ,同水系における新たな国内外来魚の現状を記録するためここに報告する.