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鹿児島県本土と屋久島におけるスナガニ属(短尾下目:スナガニ科)の分布

橋本慎太郎・新海龍ノ介・土井 航

Abstract / Introduction / Summary:

スナガニ科スナガニ属Ocypode Weber, 1795は日本から,ツノメガニO. ceratophthalma (Pallas, 1772),ミナミスナガニO. cordimanus Desmarest, 1825,スナガニO. stimpsoni Ortmann, 1897,ナンヨウスナガニO. sinensis Dai and Yang, 1985,およびホンコンスナガニO. mortoni George, 1982の5有効種が知られている(Sakai, 2000;渡部ほか,2018).スナガニは北海道から種子島および台湾に分布する温帯性種であるが(佐々木,2016;渡部ほか,2018;五嶋,2017),それ以外の4 種は本属で一般的な熱帯・亜熱帯性種である(Huang et al., 1998; Lucrezi and Schlacher, 2014).近年,本州沿岸での南方4 種の分布北進が報告されている(渡部・伊藤,2001;高田・和田,2011;和田・和田,2015;若林,2019).中でも,ツノメガニは巣穴を形成する場所がスナガニと重複し(真野ほか,2008),肉食性が強いためスナガニの小型個体を捕食している可能性が挙げられ(淀ほか,2006),ツノメガニの分布北進によるスナガニ個体群への負の影響が懸念されている(淀ほか,2006;真野ほか,2008;野元ほか,2020). 鹿児島県におけるスナガニ属の分布の調査は,渡部ほか(2018)のみが知られている.標本は残されていないが,鹿児島県本土,種子島,および奄美大島からツノメガニ,ミナミスナガニ,スナガニ,およびナンヨウスナガニの4 種が記録されている.同調査では鹿児島湾奥部はスナガニのみが分布するが,対照的に同湾湾口部,大隅半島,種子島では南方種が優占するとされている.渡部ほか(2018)による調査は,本研究より約20年前の2003年4–5月に行われており,この時期は南方からの熱帯・亜熱帯性種の新規加入が始まる前であるため(淀ほか,2006;真野ほか,2008;野元ほか,2020),湾奥部でスナガニのみが記録されたのは,南方種が越冬できなかったことを示唆している可能性がある.そこで,本報告では,本県におけるスナガニ属の生息状況を明らかにすることを目的に,新規加入がほぼ終了する2021年9–11月に鹿児島県本土(11 地点)および渡部ほか(2018)で調査が行われなかった屋久島(7地点)において採集調査を行った.