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鹿児島湾喜入干潟での防災整備事業における愛宕川河口干潟の巻貝類の生態回復

神野瑛梨奈・前川菜々・春田拓志・冨山清升

Abstract / Introduction / Summary:

鹿児島湾喜入町愛宕川支流の河口に位置する 喜入干潟は,太平洋域における野生のマングロー ブ林の北限地とされ,腹足類や二枚貝類をはじめ 多くの底生生物が生息している.しかし 2010 年 から道路整備事業の工事が始まり,これによって 干潟上の動物群集が大きな被害を受けた.干潟の 破壊が干潟の動物群集にどれほどの影響を与えた か,また生態がどのように回復していくのか調査 する必要性がある. 喜入干潟には非常に多くの巻貝類が生息して い る. そ の 中 で も, 主 に ウ ミ ニ ナ Batillaria multiformis (Lischke, 1869), ヘ ナ タ リ Cerithidea (Cerithideopsilla) cingulate (Gmelin, 1791),カワア イ Cerithidea (Cerithideopsilla) djadjariensis (K. Martins, 1899) が多く生息している.採集も容易 で,個体の移動も少ないことから,この三種を環 境評価基準として研究に用いた.種の同定を行う 際,ヘナタリとカワアイの幼貝が目視で判別する ことが極めて困難であるため,今研究ではこの二 種をヘナタリの仲間としてまとめた.研究地点は, 二つ設定した.一つ目は工事により大きな影響を 受けたと考えられる橋の真下である(Station A). 二つ目は工事による直接的な影響を受けていない と 考 え ら れ て い る 愛 宕 川 支 流 の 近 く で あ る (Station B). 調 査 は,2014 年 12 月 か ら 2015 年 11 月まで行った.毎月一回採取したウミニナと ヘナタリの仲間について,各月ごとのサイズ別頻 度分布,個体数の季節変動をグラフにして,生態 の変化について研究した. 結果として,ウミニナは Station A で,先行研 究(2013.12 ~ 2014.11)より新規加入個体は増加 した.これは生態が少しずつ回復してきていると 考えられる.しかし,干潟が掘削される前の新規 加入個体数にはまだ及ばない.ヘナタリの仲間は Station A,Station B ともに新規加入個体が先行研 究よりわずかながら増加している.しかし,先行 研究と今研究の新規加入個体の数自体は少ない. このまま,個体数の大きな増加がなければ種は衰 退していくだろう.よって,完全に生態が回復し たとはいえないと推測される. ウミニナとヘナタリの仲間の総個体数は先行 研 究 よ り Station A で 減 少 し て い る の に 対 し, Station B では増加していた.Station A では 2011 年から干潟の掘削が行われ,個体数の減少が起き た.次世代を担う新規加入個体の大きな増加がみ られないことからも,Station A では Station B よ りも生態が回復するまでに時間を要するのではな いかと推測される. 過去の報告(春田,2011;前川,2012;前川ほ か,2015)と今研究より,喜入干潟の巻貝類への 工事の影響は五年が経過しても持続していること が分かった.またStation Aでは工事の影響により, 生態が回復するのに時間を要することが分かった.この工事の影響はいつまで続くのか,巻貝類の生態が回復するためにはどのくらいの時間を要するのか,これからも継続した調査が必要であると考える.