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鹿児島湾の干潟におけるウミニナ(Batillaria multiformis)の生活史

四村優理・冨山清升

Abstract / Introduction / Summary:

ウミニナ Batillaria multiformis (Lischke) は吸腔 目ウミニナ科に属する腹足類である.発生様式は 紐状の卵鞘を産み,ベリンジャー幼生が孵化する プランクトン発生の生活史をとる.北海道南部か ら九州までの日本各地においてもっともふつうに みられ,主に砂泥や砂礫上に生息している.しか し,本種の生活史については,まだ不明な点が多 い.今回は,メヒルギ Kandelia candel (L) Druce やハマボウ Hibiscus hmabo Siebold et Zuccarini か らなるマングローブ林の北限である鹿児島県喜入 町の愛宕川河口干潟と,中礫の転石河岸で,植生 は無くコンクリート護岸に囲まれている鹿児島市 谷山の永田川で調査を行った.本研究では,2 つ の異なる環境におけるウミニナのサイズ頻度分布 の季節変化や生息密度を調査して生態学的比較を 行った. 2014 年 12 月~ 2015 年 11 月の間,毎月 1 回, 中潮~大潮の日の干潮時に目視可能なウミニナを ランダムに採集し,殻高と殻径の 2 か所を,ノギ スを用いて 0.1 mm 単位で記録した.殻高は殻頂 部が失われていることもあるため殻径のグラフの 方がより正確な数値の変化を示した. その結果,喜入干潟における殻高のサイズ分 布の季節変化は,2014 年の 12 月以外は年間を通 して 1.4–2.0 cm をサイズピークとする一山型のグ ラフであった.殻径については,年間を通して 0.4–0.6 cm がサイズピークだったのに対して,7 と 8 月はサイズピークが下がった.谷山における 殻高のサイズ分布の季節変化は,年間を通して 2.1–2.5 cm がサイズピークだったのに対して 11 月と 12 月はサイズピークが下がった.殻径につ いては,年間を通して 0.8–1.1 cm がサイズピーク として多く見られたのに対して,8 月には比較的 小さな個体も採集できた.殻高の平均サイズにつ いて,喜入で採集したウミニナの最大値は 11 月 の 1.65 cm であり,谷山で採集したウミニナの最 大値は 10 月の 2.37 cm であった.殻径の平均サ イズについて,喜入で採集したウミニナの最大値 は 11 月の 0.69 cm であり,谷山で採集したウミ ニナの最大値は 3 月の 1.01 cm であった.殻高, 殻径どちらにおいても谷山の方が大きかった.個 体数変動については,喜入において 2015 年の 1 月の 292 個体から急速に個体数を増やし 2 月の 444 個体でピークとなり,そのあとゆるやかに減 少し 8 月には 105 個体となった.9 月に 279 個体 と少しだけ増加したがその後も 160 個体前後と なった.谷山においては,2014 年 12 月がピーク となった.12 月以降は,1 月から 3 月にかけて個 体数が増加したが,その後の個体数は著しく減少 し 12–28 個体の間の値をとるグラフとなった.生 息密度について,年間の 5 区間の平均出現個体数 は,喜入で最大値 92 個体,最小値は 21 個体,谷 山の永田川では最大値 4.4 個体,最小値は 1.2 個 体であった.谷山より喜入干潟の方が,最小値と最大値の差が大きく,密度差が大きいということが分かった.