Abstract / Introduction / Summary:
カワネズミ Chimarrogale platycephalus は,本州 (千葉県を除く)と九州本土に生息する日本固有 種である(Abe et al., 2015).背面の体毛は夏季に 黒褐色,冬季に灰色強い色に変わり,臀部に銀色 の刺毛が多い.腹面は淡褐色である.耳介は小さ く,体毛に覆われている.手足の指の側面には剛 毛が生えていて,指間に皮膜はないが,水中遊泳 に役だっている.遊泳中は体毛の間に気泡がたま り,その反射で銀色に見える.雌は雄よりも小さ く,九州産の個体は本州産に比べて小さい(Arai et al., 1985).山間部の岩や露出した転石,丸太(倒 木)が横たわる渓流域に生息している(阿部, 2005;Abe et al., 2015).水生昆虫,小型の魚類, 両生類,甲殻類を主食とし,繁殖は 2 ~ 6 月の春 季と 10 ~ 12 月の秋季の年 2 回あり,産仔数は平 均 4.2 頭, 寿 命 は 3 年 以 上 で あ る(Abe et al., 2015). これまで鹿児島県における哺乳類の調査で,カ ワネズミの生息記録がなかった(森田,1973, 1974; 酒 匂,1994; 大 塚,1995; 鮫 島,1997). しかし,比較的最近になって鹿屋市大隅湖上流域 でカワネズミが捕獲された(中村・森田,2003). そこで,2013 年から本格的なカワネズミの調査 を行い,鹿児島県における本種の生息分布域を明 らかにするとともに,地域個体群としての位置づ けと今後の生態的研究の課題および保全に関わる 問題を検討した.