Abstract / Introduction / Summary:
カスミサンショウウオ(Hynobius nebulosus)は, サンショウウオ目サンショウウオ科に属し,愛知 県以西に分布する代表的なサンショウウオ類であ る.鹿児島県は分布域の最南端に当たり,県内で 確認されているサンショウウオ類 4 種(コガタブ チサンショウウオ,ベッコウサンショウウオ,オ オダイガハラサンショウウオ,カスミサンショウ ウオ)のうち,本種は唯一平地から丘陵地のいわ ゆる里山を生息環境としている.通常,成体及び 幼体は陸域で生活しており,落葉層が厚く餌の土 壌動物が豊富な樹林や竹林等で見られるが,産卵 は水域で行われるため,繁殖期(12 月から翌年 2 月頃まで)には水田や水路,溜め池等に集まる(図 1).このように人間の行動圏付近で生活している ことから,他のサンショウウオ類に比べ人為的影 響を受けやすく,近年耕作放棄や農薬の使用等に よる生息環境の悪化に伴い,急速に個体数を減ら している.環境省レッドリスト(2012 年)及び 鹿児島県レッドデータブックでは,“ 絶滅危惧 II 類 ” に指定されている. 鹿児島県内のカスミサンショウウオの生息範囲 については,畑田・石作(1988),鮫島(1995), 中間ら(2005, 2008)による報告がある.それに よると出水平野を中心に,平地から丘陵地にかけ ての水田地帯での確認例が多いが,いずれも「点」 による断片的な確認であり,その全貌は明らかに されていない.本報告では,鹿児島県野生生物研究会の活動の一環として,1993–2007 年及び 2013 年に同地区で実施した調査成果を基に生息環境の 普遍性を解明し,生息環境モデルによる生息域推 定を試みた.また確認情報を整理し,生活史にお ける,自然物に固執しない多様な微環境の利用に ついて考察した.