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鹿児島県笠沙沖から得られたカンムリブダイ Bolbometopon muricatum(ベラ亜目:ブダイ科)の記録

荻原豪太・吉田朋弘・伊東正英・山下真弘・桜井 雄・本村浩之

Abstract / Introduction / Summary:

ブダイ科 Bolbometopon 属は,従来 Scarus muri- catus Valenciennes in Cuvier and Valenciennes, 1839 と Scarus bicolor Rüppell, 1829 の 2 名義種が帰属 すると考えられていたが,Bellwood (1994) によ りブダイ科の属の再定義が行われ,両種はそれぞ れ Bolbometopon と Cetoscarus の 2 属に分類され た.Bolbometopon 属には和名としてイロブダイ 属が使用されていたが,イロブダイ Cetoscarus bicolor の属名が変更されたことにより,島田 (2000)は Cetoscarus 属にイロブダイ属の和名を 適用した.これに伴い Bolbometopon に当たる和 名が失われたため,島田(2000)は,吉野・荒賀 (1975)が提唱したカンムリブダイ属を適用した. 現在,カンムリブダイ属は,世界でカンムリブダ イ Bolbometopon muricatum (Valenciennes in Cuvier and Valenciennes, 1839) の 1 種のみが知られている ( 吉 野・ 荒 賀,1975;Shao and Chen, 1993; Bell- wood, 1994). Bolbometopon muricatum は,インドネシア・ジャ ワ島から採集された 1 標本に基づき 1839 年に Scarus muricatus として新種記載された.その後, 靑柳(1941)はパラオ・マラカル島産の本種 2 標 本(標準体長 210.5–272.1 mm)に基づき新標準 和名カンムリブダイを提唱した. 現在,カンムリブダイは八重山諸島以南のイ ンド・太平洋に広く分布し(島田,2000;Shi- mada, 2002;岸本,2006),主にサンゴ礁域に生 息していることが知られている(島田,2000, Shimada, 2002). 2009 年 12 月 29 日に鹿児島県薩摩半島の南西 に位置する笠沙沖の定置網において,カンムリブ ダイと同定される標本が 1 個体採集された.この 標本は,本種の鹿児島県における標本に基づいた 初記録であり,同時に分布の北限更新になるため ここに報告する.