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桜島袴腰の転石海岸におけるイシダタミガイ(Monodonta labio confusa) の生態学的研究—ω指数を用いた共存する複数種の巻貝類の種間関係の分析—

橋野智子・冨山清升

Abstract / Introduction / Summary:

鹿児島県の桜島には溶岩によって形成された転石海岸があり,その潮間帯には数mの岩から数cmの小石まで様々な大きさの転石が存在する.そして,転石層の厚さも下層の砂が見える程度から数10cmの深さまで潮位やその場所によって異なり,潮間帯の環境は変化に富んでいる.

本研究では,この転石海岸で比較的多く見られる巻貝の生態学的研究の一環として,桜島袴腰海岸におけるイシダタミ(Monodonta labio confuse)個体群の1月ごとのサイズ頻度分布と季節ごとの密度を調査し,イシダタミガイの生態を明らかにすることを目的とした.イシダタミガイは潮間帯の転石帯の転石の下などに生息している巻貝である.北海道以南に分布する.

サイズ頻度分布調査は2007年1月から2008年2月まで月に1回,潮間帯で100個以上採集し,殻高を測り,生活史を調べた.イシダタミガイの新規個体加入のピークは2007年4月と2007年12月から2008年2月にあったが,3・5・6・11月にも少数ではあるが加入していた.夏はサイズピークが6から9月にかけて8 mmから1 mmずつ大きくなった.

5月,8月,10月,12月に生息密度調査を行い,季節ごとの垂直分布を調査した.イシダタミガイは潮間帯の中部上から下部まで広く分布していた.5月は中部上に中部下よりも小型の個体が現れた.8月は中部下に中型,大型の個体が集中し,中部上の小型の数は中部下より多かった.10月は中型,大型は中部下に分布し,小型は中部上に分布していた.12月は下部に小さい個体が集中し,中型,大型の個体は中部上に分布していた.中部上では10月に密度が低くなるが,12月には高くなっていた.中部下では8月の密度が最も高く12月にかけて低くなった.下部では10月から12月にかけて急激に密度が高くなった. イシダタミガイ-シマベッコウバイの種間関係は,ω指数が±0.5以内であることから,ほぼ独立分布であり,その傾向は5から12月にかけて重なる分布に近づいた.イシダタミガイ-カヤノミカニモリは8月と12月に排他的分布に近くなった.カヤノミカニモリは8月に中部上で多く,12月に中部下で多い.一方,イシダタミガイは8月で中部下に多く,12月で下部に多い.イシダタミガイの生殖に伴われる移動が,8・12月において,排他的分布を示す原因の1つであると考察した.