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北限のマングローブ林周辺干潟におけるヒメカノコガイ Clithon oualaniensisのサイズ分布

菊池陽子・武内麻矢・冨山清升

Abstract / Introduction / Summary:

鹿児島県喜入町の愛宕川河口の干潟には,メ ヒ ル ギ Kandelia candel や ハ マ ボ ウ Hibiscus hamabo からなるマングローブ林が広がっており, ア マ オ ブ ネ ガ イ 科 に 属 す る ヒ メ カ ノ コ ガ イ Clithon (Pictoneritina) oualaniensis (Lesson, 1831) が 生息している.ヒメカノコガイは房総半島以南の 河口泥上に生息している雌雄異体の巻貝である. 本種は研究例が少なく,特に生態は明らかにされ ていない.本研究ではヒメカノコガイの分布の季 節変動を明らかにすることによって,生活史を解 明することを目的とした. 調査は愛宕川河口の支流にある干潟で毎月 1 回大潮または中潮の日の干潮時に行った.3 つの 調査区を約 60 m 間隔で設定し,各調査区におい て 10 × 10 cm のコドラートをランダムに 5 か所置 き,出現個体数を記録した.またヒメカノコガイ の殻幅を 0.1 mm 単位で測定した. その結果,下流域の出現個体数は他の調査区 と比べてかなり少ない事がわかった.上流域と中 流域では春に個体数が減少し,秋に個体数が増加 するという傾向が見られた. 殻幅頻度分布は各調査区の間で差は見られな かった.夏は殻幅 5.0–6.0 mm 前後の個体がほと んどだが,秋,冬は 3.0 mm 前後と 7.0 mm 前後 の個体を中心に構成されていた.出現個体数とあ わせて考えると,秋に 3.0 mm 前後の幼貝の新規 加入が起きているものと思われる.また,7.0 mm 前後の個体は月を追うごとに減少していることか ら,6.0 mm 程の大きさになると死亡する個体が 多くなり,冬を越せる個体はわずかであると思わ れる.このことからほとんどのヒメカノコガイの 寿命は 1 年であることが判った.