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川内川曾木分水路の自然再生の現状― 河道掘削竣工後のエコシステムの回復 ―

鮫島正道・宅間友則・今吉 努・徳永修二・ 下沖洋人・東郷純一・豊國法文・角 成生

Abstract / Introduction / Summary:

近自然河川工法(多自然型川づくり)は, 人間の利便性を地球環境や生命に配慮しながら実 現しようとする試みのひとつであり,「自然と人 との共生」を目指している.本調査の目的は,竣 工後のエコシステム(河川生態系)回復状況の把 握にある. 曾木分水路において,環境の成り立ちの中での 作用,反作用,および相互作用により,複雑な食 物連鎖および食物網,食物ピラミッド等が観察さ れている.このような生態学の典型的な内容が具 体的に確認され,速い速度で生態環境が回復して いることも確認された. 掘削による裸地からの遷移には,周辺地の環境 と生物の多様性が大きな役割を担っている.時間 の経過に伴う植物の遷移,マント群落とソデ群落 の発達,それに連動する動物の遷移,河床の多様 な構造変化(甌穴の発達)等が予測され,自然の 力を積極的に利用することが自然の再生には有効 である. 本調査(簡易モニタリング)は,完成後 1 年数ヵ 月経過した 2012 年(平成 24 年)8 月現在の結果 である.短期間にもかかわらず,曾木分水路の状 況は,ある程度の自然の回復がみられ,環境に配 慮した事業として良い評価を得られそうな兆しが みられた.今後,詳細なモニタリング調査と順応 的管理により,生物多様性に富んださらにレベル の高い生態系の再生が可能である. 河床や周辺域の植生環境の多様化は,陸上・陸 水生態系の食物連鎖において確かな生態系ピラ ミッドの基礎部であり,自然再生の要でもある. したがって,施工や維持管理の現場ごとに,こう した小さな生態系ピラミッドの存在・植生環境の 多様化を意識して作業を行うことが必要である.