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鹿児島県薩摩半島南部の陸産貝類相の生物地理学的分析

鮒田理人・冨山清升

Abstract / Introduction / Summary:

陸産貝類は,移動性が低く,進化が限られた ごく狭い範囲で起こるため,地域的な種分化が多 い.このような特性から,各地域における陸産貝 類相の特徴を掴むのに非常に適している. 本研究の調査地とした鹿児島県薩摩半島南部 地域は,九州の南西端に位置し,東には錦江湾, 西には東シナ海を臨んだ自然が多く残る地域であ る.しかし,鹿児島県本土以外の諸島,トカラ列 島地域や桜島などに比べ,鹿児島県本土における 陸産,海産貝類についての先行研究(主にその地 点に生息する生物群の種多様度)が少なく,特に, 陸産の微小貝についてそのデータが乏しい.そこ で本研究では,鹿児島県レッドデータブックに記 載されている種も重要な調査対象の一つとして, 鹿児島県薩摩半島南部地域の自然林または人工林 での陸産貝類相,特に微小貝類相の多様性を調査 し,それを基に陸産貝類の特徴や地点間の相違点 を明らかにすることを目的とした. 本調査は,鹿児島県薩摩半島南部地域内 17 地 点で土壌を持ち帰り,その中に生息している陸産 貝類の採集を行った.採集した陸産貝類は必要な 処理を行った後に同定,種別にラベルをつけ保存 した.その後地点ごとに多様度指数と,各地点間 の種・属の類似度指数,群分析を行った. 鹿児島県薩摩半島南部の自然林または人工林 が見られる地点 17 ヶ所において,調査および同 定の結果,原始紐舌目 6 種,有肺目 16 種の合計 22 種の陸産貝類が採集された.17 地点のうち, 最も多くの種数が見られたのは Pt. 16 のメディポ リス前(指宿市)と Pt. 8 の入来(薩摩川内市) であり,合計 7 種が採集された.最も種数が少な かったのは,Pt. 5 伊集院(日置市),Pt. 6 冠岳(串 木野市),Pt. 9 小山田町(鹿児島市),Pt. 15 青隆 寺(指宿市)の 4 地点で,合計 1 種しか採集され なかった.また,鹿児島県のレッドデータブック の中の〈鹿児島県のカテゴリー区分〉に基づき, 発見された各種の希少度評価を行ったところ,準 絶滅危惧が 15 種,分布特性上重要が 7 種確認で きた. 本調査の結果,針葉樹林よりも広葉樹や雑木 林の方が,種数・個体数ともに多くの陸産貝類が 生息している傾向が見られた.また類似度につい て,地点同士の距離が近くても必ずしも出現する 種に類似性が見られるとは限らないという結論に 至った.その原因として,陸産貝類の非常に低い 移動能力が関係していると考えられる.今回の調 査では多くの準絶滅危惧にカテゴリーされている 種が見つかったが,より正確かつ詳細を明らかに するために,更なる細かいサンプリング(季節ご と,人員を増やしての調査),コドラート法など を用いた調査が必要と思われる.