Abstract / Introduction / Summary:
鹿児島県鹿児島市の桜島袴腰海岸は,1914年の大正噴火で噴出した溶岩で形成された岩礁性の転石海岸である.袴腰海岸には複数の肉食貝類が生息しており,カヤノミカニモリ(Clypeomorus bifasciata)もその中の1種である.カヤノミカニモリは盤足目オニノツノガイ科に属する巻貝である.本種は,房総半島・山口県以南,熱帯インド・西太平洋に分布し,潮間帯上部,岩礁のくぼみに群生する.本研究では,桜島袴腰海岸に生息するカヤノミカニモリについて,サイズ頻度分布,雌雄の比率を調査し,カヤノミカニモリの生活史を明らかにすることを目的とした.サイズ頻度分布調査は2010年12月から2011年12月まで毎月1回,コドラートを用い,3ヶ所で25 × 25 mの枠内にいる個体を全て採取し,ノギスで殻長を0.1 mmまで測定し記録した.この調査の結果,本種は年間を通してサイズピークが20 mm前後であり,10 mm前後の小さい個体群が1月,11月,12月に出現する結果となった. 雌雄の比率を調査するための生殖腺観察は2011年5月から2011年12月の期間で行い,各月の採取した固体の中から,20個体の生殖腺を光学顕微鏡で調査した.この調査の結果,2011年6月から2011年9月の間で精子を観察できた.また,精子が見られない時期では卵子が多く見られた.また,繁殖期におけるメスとオスの殻長平均値の差を調査するために,独立変数を雌雄,従属変数を殻長とし,t検定を用いた.結果については,メスとオスの殻長差に有意差はなかった.生殖腺観察において,精子が見られる時期が6月から9月であったことから,本種の生殖時期は6月から9月の間であると考えられる.産卵時期は10月から11月であり,サイズ頻度分布調査において,11月に出現した小さい個体群は新規加入個体であると考えられる.また,2010年1月と2011年11月,12月の小さい個体群のサイズに変化があまり見られないことから,本種は冬に成長スピードが低下する可能性がある.