Abstract / Introduction / Summary:
フトヘナタリ Cerithidea rhizophorarum は,西 太平洋の熱帯・亜熱帯に分布し,日本では東京湾 以南で見られる雌雄異体の巻貝である.鹿児島県 鹿児島市喜入町愛宕川流域の河口干潟はメヒルギ Kandelia obovata やハマボウ Hibiscus hamabo など から構成されており,ウミニナ科のウミニナ Batillaria multiformis (Lischke, 1869) とフトヘナタ リ科のカワアイ Cerithidea djadjariensis (K. Martin, 1899) と ヘ ナ タ リ Cerithidea cingulata (Gmelin, 1791) の 3 種が同所的に生息している(若松・冨山, 2000).フトヘナタリ科の貝類は汽水域の砂泥底 または泥底によく見られ,日本の干潟では普通に 見られる貝類である. 本種の生態に関してはこれまでにいくつかの 研究例がある.大滝他(2001)は本種が乗っかり 型の繁殖行動を行うことを,小野田他(2009)は 本種が精包の輸送による受精を行うことを報告し ている.波部(1995)は岡山県笠原市の潮間帯に おける本種の産卵様式について報告している.ま た,武内(2005),鈴鹿(2007)は鹿児島県喜入 干潟における本種の行動について報告し,天候や 潮汐が繁殖行動を妨げる可能性を示唆している. 本研究では,喜入干潟に生息するフトヘナタ リの繁殖期,生殖腺の様態から見た性成熟時期, 繁殖行動を妨げる要因となる条件を明らかにする ことを目的とした.