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ツツイイワヘゴ(オシダ科)を福岡県八女市に記録する

金光浩伸

Abstract / Introduction / Summary:

ツツイイワヘゴDryopteris tsutsuiana Sa.Kurata (オシダ科)は,福岡県豊前市を基準産地として1969 年に記載されたシダ植物である(倉田,1969).本種は,ツクシオオクジャクやキヨスミオオクジャクに類似するとされるが,葉柄と中軸の鱗片は黒褐色で辺縁に刺状突起が少しあること,ソーラスはキヨスミオオクジャクよりも辺縁寄りではあるがツクシオオクジャクよりは内側寄りにつくこと等で区別される(倉田,1969).豊前市の個体は3倍体無融合生殖種であることが知られていたが(Hirabayashi,1974),近年の研究で2倍体型も存在することが明らかになった(Hori et al., 2019).
 ツツイイワヘゴは日本固有種であるが,その分布は,福岡県の1箇所,熊本県の2箇所,山口県の1箇所の計4箇所に限られている(海老原,2017;熊本県希少野生動植物検討委員会,2019;筒井,1988;堀・山根,2022).福岡県の基準産地においては,林道工事と砂防ダム工事によって大幅に減少した後,シカの食害による影響で絶滅状態となっていたが(福岡県環境部自然環境課2001,2011),福岡県版レッドデータブックの改訂に向けた調査(2021–2023年度)において基準産地付近で新たに幼若株が1 個体発見され,福岡県自然環境課と福岡県保健環境研究所による保全に向けた取り組みが進められている(金光,2022).その他の自生地については,山口県の1 箇所に4個体が現存するが(堀・山根,2022),熊本県の2箇所では絶滅状態となっている(熊本県希少野生動植物検討委員会,2019).このように全国的に希少性が高いことから,本種は環境省レッドリスト,福岡県レッドデータブック,熊本県レッドデータブックにおいて絶滅危惧ⅠA類に選定されている(環境省,2020;熊本県希少野生動植物検討委員会,2019;福岡県環境部自然環境課,2011).
 今回,福岡県の基準産地とは異なる山地において新たなツツイイワヘゴの自生地を発見した.本種は全国的に希少性が高く,保全に向けた取り組みを迅速に進めていくことが必要であるため,以下に報告する.