Abstract / Introduction / Summary:
ホソバノキミズ(Elatostema lineolatum Wight) はネパール,ブータン,インド,スリランカ,ミャ ンマー,タイ,ベトナム,中国,台湾に広く分布 している高さ 0.5–2 m のイラクサ科の小低木であ る(Lin et al., 2003; Tseng and Hu, 2015; Fu et al., 2019).日本においては,山崎(1995)が 1887 年 に田代安定氏が沖縄島で得られた標本(TI に収 蔵),および 1910 年と 1924 年にそれぞれ生熊与 一朗氏,田代善太郎氏が奄美大島から得られた標 本(それぞれ KYO,KYO & TI に収蔵)に基づき, 国内の分布報告を行った.しかしながら,これら の標本以降,長らく自生に関する記録がなく,米 倉(2016)では「日本では琉球の奄美大島と沖縄 島で過去に採集されたことがあるだけで,戦後誰 も見た人はいない」と述べられるなど,鹿児島県 RDB(鹿児島県,2016)や環境省レッドリスト 2020(環境省,2020)では絶滅種として扱われて いる. 著者らは 2020 年 10 月 24 日に実施した奄美大 島の調査で,常緑樹林の沢沿いでホソバノキミズ の生育を確認し,標本を得ることができた.奄美 大島での分布確認は約 100 年ぶりのことであり, 奄美大島におけるホソバノキミズの生育状況につ いて報告する. なお、ホソバノキミズの学名として,山崎 (1995),鹿児島県(2016),環境省(2020),台湾 (Tseng and Hu, 2015)では,Elatostema lineolatum var. majus が用いられているが,Flora of China(Lin et al., 2003)やベトナムの Elatostema のチェック リ ス ト(Fu et al., 2019),The Plant List(http:// www.theplantlist.org/tpl1.1/record/kew-2786965) で は var. majus は 区 別 さ れ て い な い.Elatostema lineolatum の レ ク ト タ イ プ 標 本(Wight 269, K000575282)は,葉の大きさを含む形態的特徴 において,奄美大島で再発見されたホソバノキミ ズによく一致する.このため,この報告ではホソ バノキミズの学名として Elatostema lineolatum を 用いる.