Abstract / Introduction / Summary:
鹿児島県喜入町の愛宕川河口干潟には,ウミニナBatillaria multiformis (Lischke)が生息している.ウミニナは泥中に紐状の卵鞘を産み,ベリジャー幼生が孵化するプランクトン発生である.しかし,本種の生活史については,まだ不明な点が多い.本研究ではウミニナの生活史を明らかにする目的の1つとして,愛宕川の河口干潟において複数の調査区を設置し,ウミニナのサイズ頻度分布の季節変動について比較調査した. 調査は毎月行ない,愛宕川の河口干潟に上流からStation A, Bを設けて,25 × 25 cmのコドラートをランダムに3ヵ所とり,コドラート内のウミニナの出現数と殻高を計測した.その結果,上流から下流になるにつれて,サイズピークが大きくなることが観察された.また,愛宕川河口のウミニナは,春から夏ごろに卵鞘が産みつけられ,水中でのプランクトン生活を経て,夏から秋ごろに着底し,8から12月には約3 mmに成長し,1月には4–6 mmに成長すると予測された.その後,次の歳の春には6 mm程度に成長し,秋までに18 mmに達する.冬には成長が停止,または遅くなり,翌春にサイズピークのサイズ集団に近づくと予測された. またStation AとBの形態の比較も行なった.ウミニナの成長が落ち着く10月にStation AとBそれぞれにおいて220個体ずつ採取し,殻高と螺塔部位と殻幅の3ヵ所の長さを測定した.得られた数値をt-検定にかけて有意差の有無を調べたところ,AとBの調査区において形態の差異が確認された.