Abstract / Introduction / Summary:
陸産貝類はほかの動物群に比べて移動能力が 極端に低いため,地域的な種分化が多い. 鹿児島県の離島では陸産,海産貝類の調査が 比較的行われているが,鹿児島県本土はほとんど 調査が行われていない.そこで本研究では鹿児島 県中央北部に焦点を当てて,陸産貝類の分布調査 を行った. 本調査は鹿児島県中央北部の姶良市および霧 島市の計 13 地点にて陸産貝類の採取を行った. 採取は主に神社付近や社寺林の雑木林を中心に 行った.採取方法は落ち葉の下や土壌表面,樹上 を中心に見つけ取りを行った.また微小貝を採取 するために調査地点の落ち葉を含む土壌を 500 ml ほど持ち帰った.また,サンプルから得られたデー タについて,種名リストを作成し,各地点の類似 度を求めた.今回は共通種数による指数である, 野村・シンプソン指数を用いた. 13 地 点 の 調 査 の 結 果, 計 10 科 21 属 25 種, 254 個体の陸産貝類を採取した.13 地点のうち最 も多くの種数がみられたのは姶良市平松岩剣神社 の 11 種であった.このうちの6種が土壌をふる いにかけて見つかった微小貝であった.最も少な いのは霧島市霧島永水北永野田駅で一種だった. 個体数についても最も多いのは姶良市平松岩剣神 社で,50 個体が採取された.また,このうち 33 個体が土壌をふるいにかけて見つかった微小貝で あった.最も少なかった地点も霧島市霧島永水北 永野田駅の 1 個体であった. 今回の調査で採取地点,採取数ともに多かっ たアズキガイ,ヤマクルマガイ,アツブタガイは 鹿児島県中央北部での普通種であるといえる.逆 に,一地点でのみ確認できた種はベッコウマイマ イ科が多く,これらは分布域が連続していないと 考えられる. 今回の調査で個体数が多かった地点は近くに 民家や畑があったり,参拝客が多い神社であった りと人の手が加えられている場所が多かった.こ のことは,「かたつむりの世界」(川名,2007: 14) でも神社仏閣の林叢が陸産貝類が好む生息地の一 つであると述べられている.以前行われた鹿児島 県本土(北薩地方,薩摩半島南部,鹿児島市街地 域)での分布調査(今村ほか,2015)でも同様に 人の手が加えられたり,民家が近くにあったりす る地点で多くの陸産貝類が見つけられたとあっ た.しかし,人の手があまり加えられていない, 採取数が少ない地点でのみ見つけられている種も あり,必ずしもすべての陸産貝類に当てはまると は言えないだろう.また,周辺に民家や畑が多かっ た霧島市の北永野田駅周辺は一個体しか採取でき ず,土壌などほかの要因による制限が考えられる. 類似度については比較的距離の近い,鹿児島 神宮と蛭子神社で大きな違いがみられた.この原 因としては,陸産貝類の移動能力の低さと,樹木 の数や陰の数の違いによって環境が異なっている ことが考えられる. 今後の課題はより細かなサンプリングを行い,各地点間での採取にかける時間などを統一し,正確なデータを得る必要性がある.また,採取地点の土壌や,植生などの環境的な要因についても合わせて調査していくことも必要となるだろう.