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薩摩硫黄島温泉の化学成分の研究

坂元隼雄

Abstract / Introduction / Summary:

硫黄島(薩摩硫黄島)は鹿児島県大島郡三島村 に所属し,薩南諸島北部に位置する島である.鬼 界カルデラの一部でその大きさは東西5.5 km × 南北2.0 km の火山島である.同島は俊寛僧侶流 刑の伝説地として知られている.また,安徳天皇 の末えいと称される長浜豊彦氏(33 代)が生存 されていた島である. 鬼界カルデラの火山活動としては同カルデラの 北縁(硫黄島の東方海上約2 km)で昭和9 年(1934) に海中噴火が起こり,高度約25 m の新島(昭和 硫黄島,海底から約320 m)が誕生した.また, 同島の硫黄岳(御岳)山頂火口には火山の噴火時 に近い高温(800℃を超える)の噴気活動が長年 に渡って継続している特異な火山である.現在, 硫黄岳の火口・山腹には噴気活動がみられ,硫黄 岳・稲村岳(噴気活動は見られない)の海岸線の 一部には大量の温泉が湧出している.その温泉が 海水中に流れ込む場所では海水中の成分と化学反 応を起こし,白・赤などの温泉沈殿物を生成する. その沈殿物が海の潮流によって広がり,素晴らし い景観をみせる火山島である. 図1 は鬼界カルデラ縁から,眼下に長浜港,中 央に稲村岳,その向こうには現在も火山活動を継 続している硫黄岳の姿である.同写真(カラー写 真)の海岸線には温泉沈殿物の広がりが確認でき る.また,昭和硫黄島の浪打際から数メートル上 がった場所には温泉が湧出している. 地球化学的にみた硫黄島火山の特異性は,①最 近,噴火活動があったこと,②高温(800℃を超 える)の噴気活動が現存し,その活動が長期間続 いていること,③いろいろの温度の噴気孔が分布 していること,④噴気活動と温泉活動が共存して いること,⑤各種の火山性温泉が分布しているこ と,⑥人が火口内に近づける数少ない研究の フィールドであることである.これらのことから 硫黄島火山は多くの火山や温泉に興味を持つ国内 外の研究者が訪れ,多くの報告がある(鎌田, 1964, 1988;岩崎ほか,1968;鎌田ほか,1974; 坂元・鎌田,1975;吉田・小沢,1981;Nogami et al., 1993). 著者らは前報で硫黄岳の噴気孔から放出される 水銀などの揮発性元素について報告した (Sakamoto et al., 2003).本報は1961 年7 月から 2000 年10 月までに硫黄島周辺に湧出する温泉の 化学成分を分析し,その経年変化を調べた.その 結果を報告する.