Abstract / Introduction / Summary:
陸産貝類は,移動性が低く,進化が限られた ごく狭い範囲で起こるため,地域的な種分化が多 い.このような特性から,各地域における陸産貝 類相の特徴をつかむのに非常に適している.鹿児 島県北薩地方を中心に陸産貝類の分布調査を行 い,各調査域における陸産貝類相を明らかにする ことを研究目的とした. 2014 年 4 月から 10 月まで,鹿児島県北薩地方 を中心に,13 地点においてナメクジを除く有肺 類を採集した.調査地へは JR で赴き,神社や山林, 雑木林を中心に採集を行った.採集は主に見つけ 取りで行った.そして,調査地の落葉層の土 1L 程度をビニル袋 1 袋に集め,研究室に持ち帰り, 土をふるいにかけ,小型の貝や微小貝を採集した. 生きていたサンプルは茹でて肉抜きをした後,軟 体部はエタノール中に液浸標本として保存した. 貝殻は簡単に水洗いし,乾燥機に 1 週間ほどかけ, 同定した後,チャック付きビニル袋に入れて保存 した.以上の作業終了後,多様度・類似度などの データ分析を行った. 13 地点の調査の結果,計 8 科 13 属 14 種,288 個体の陸産貝類(ナメクジを除く有肺類)を採集 した.各調査地点において,種数をみると,出水 市野田町下名中郡では最も多い 9 種を確認した. 最も少なかったのは鹿児島市烏帽子獄神社で 1 種 であった.種においては,出現地点数をみるとア ズキガイ,アツブタガイ,ヤマクルマガイが最も 多く,13 地点中 8 地点で確認された.最も少なかっ たのはトクサオカチョウジガイ,ヒゴギセル,レ ンズガイでそれぞれ 1 地点でしか確認されなかっ た. 全体的に草刈りなどにより,ある程度人の手 が加えられた環境で多くの陸産貝類が見つかっ た.これは,人の手が加えられることにより,陸 産貝類が生活していく上で重要な湿度が高くなり 過ぎず,土壌の性質が適度に保たれるためだと考 えられる.また,採集地の環境から,土壌の量や 豊富な落ち葉も陸産貝類にとっては重要だとも考 えられる.生息場所によっては,人工物をある程 度利用しているものもおり,人間の作り上げた環 境への順応が見受けられた.