Abstract / Introduction / Summary:
鹿児島のシンボル桜島は,海上景観の美しさに 加え噴煙を上げる光景は観光客には喜ばれてい る.しかし,桜島をはじめ,その周囲に居住する 人や農業・観光業などを営む人々には,桜島火山 南岳火口から放出される火山噴出物の一つである 降下火山灰(以下,火山灰と略記する)は厄介も のの一つである.特に,火山灰や火山ガスなどに よる桜島及びその周辺の農業・運輸業・水産業な どの被害が報告されている. 一般に,火山活動は短期間に終息することが多 いので自然災害として取り扱われるケースが多 い.桜島火山南岳は,1955 年(昭和 30 年)10 月 に活動を開始して以来,途中多少の休止期間を挟 んでいるが,60 年近くに渡って断続的に活発な 火山活動を継続している.この間に放出された火 山噴出物の総量は 2 × 108 トンのオーダーに達し たものと推定されている(鎌田・坂元,1974, 1975a–b).このような活発な火山活動が長期間に 渡って継続すると,その産物である火山噴出物(噴 石,火山灰,火山ガスなど)が環境にさまざま影 響を及ぼすことが考えられている. 桜島火山南岳火口から放出された火山灰の主成 分は,ケイ素(25–30%),アルミニウム(7–9%) などの元素,火山ガス成分のフッ素,塩素などの ハロゲン元素や硫黄などの他に,銅,亜鉛,鉛, カドミウム,水銀などの徴量重金属元素が含まれ ている(坂元・鎌田,1974;島田ほか,1980;石 川ほか,1981;鹿児島県,1981). 桜島火山は,大正の大噴火(1914 年),昭和の 大噴火(1946 年)で,多量の溶岩が流出した. その火山噴出物による災害は,周囲数十 km に及 んだ. 1955 年以降,桜島の火山活動が長期化し,火 山ガス・火山灰などによる環境への影響が懸念さ れ,火山噴出物の中で気体状,固体状で放出され るものに関する基礎的な研究が行われた(小牧・ 竹下,1978;竹下ほか,1979, 1980a–b, 1981).し かし,火山噴出物の徴量元素の成分変化と火山活 動に関する化学的な研究は少ない.その理由は, 火山活動が開始しても,しばらくすると休止して しまう.また,火山活動の周期は人間の一生に比 べると比較にならない程長いといったこともあ り,継続的な研究が行われ難いこともある.桜島 火山南岳(図 1)は,1955 年以来,約 60 年間に も渡り活発な火山活動を継続している世界でも類 を見ない特異的な火山の一例である. 桜島火山南岳は,時々約 3,000 m にも達する大 爆発を繰り返している.このような活発な活動し ている火山の場合,火口内に入って,火山ガス等を採取することは多大の危険を伴う.そこで,同 火山のような場合の調査方法の一つとして,火山 噴出物の一つである火山灰に付着して来る火山ガ ス成分に注目した火山研究が行われた(小坂・小 沢,1975a–b; 平 林,1981; 小 坂 ほ か,1982; Hirabayashi et al., 1982). 著者は,桜島火山南岳火口から放出された火山 灰に含まれる重金属元素(銅,亜鉛,カドミウム, 鉛)含有量,同火山から放出された火山灰を純水 (蒸留水)に浸せきし,溶出した各種成分を分析し, その結果は報告した(坂元・鎌田,1974;坂元, 1975, 1977, 1983;斉藤ほか,1982). また,桜島火山周辺に大気水銀自動測定装置を設 置し,南岳火口から大気中に放出された水銀の連 続観測を行った(鎌田・坂元,1980). さらに,桜島火山の活動時(噴火時)に近い高 温の噴気孔(約 800℃)を有し,人が近づける鹿 児島県三島村の薩摩硫黄島火山硫黄岳を初め,日 本各地(九州,東北や北海道など)の火山発散物 (ガス状物質)などを採取し,水銀などの揮発性 元素について報告した(小沢,1965;坂元・小沢, 1974; 坂 元 ほ か,1974; 坂 元・ 鎌 田,1981; Sakamoto et al., 1989, 2003;Tomiyasu et al., 2003; 坂元,2008). 火山灰は,不溶性のケイ酸塩部分にマグマの火 山ガス成分を付着して飛来する.活発な噴火活動 伴う火山から離れた安全な場所で火山灰を採取 し,火山ガス成分に関する情報が得られる可能性 がある. 著者が所属していた鹿児島大学理学部には,鹿 児島第七高等学校の(故)久保田温郎教授が採取 された大正 3 年(1914 年)1 月 14 日の桜島大爆 発の火山灰,鹿児島大学農学部の(故)宇田川畏 三教授,鹿児島大学理学部の(故)鎌田政明教授 等によって採取された 1945–1950 年の貴重な火山 灰が良好な状態で保存されていた.これらの火山 灰と 1955 年 10 月以降に採取した火山灰の付着火 山ガス水溶成分の分析結果と桜島火山活動につい て調べた.その結果を報告する.