Abstract / Introduction / Summary:
植物は動物よりはるかに長寿であり,巨大に なる.寿命では植物が 5000 年に近くなるのに対 して,動物では 200 年にも満たない(鈴木, 2002).大きさでも世界最大の植物は,重さでセ コイアオスギの 1800 トン,高さではセコイアメ スギの 115.5 m,直径ではメキシコヌマスギの 11.4 m などが知られており,いずれも動物の世界 を大きくしのぐ.このような老木巨木が存在する ためには,安定した自然環境が長く保たれている 必要があるので,すぐれた自然の指標としても, 巨木や老木の存在は重要である. 鹿児島県の大部分では,本来の自然植生であ る照葉樹林が伐採されスギやヒノキの針葉樹植林 や二次林に変換された.ただし,同じ照葉樹林地 域でも関東地方などと比較すると温暖な地である 鹿児島では,照葉樹林の構成種が萌芽などにより 再生しやすいので(Itow, 1983),劣化した二次林 でも照葉樹種の若木が数多く発生していることも 珍しくはない.しかし,巨木に育つためには少な くとも数百年の年月が必要であり,巨木の存在は そこに豊かな自然が長く保持されていたことを示 す.大隅半島はかつて広大な面積の照葉樹林が あったとされているが(熊本営林局植生調査係, 1937),現在は稲尾岳と木場岳に比較的まとまっ た面積であるほかは,各地に小さな林分が点在す るにすぎない.稲尾岳では,おそらくは太平洋に 近いため強風という自然条件の影響で,巨木がほ とんどないが,内陸部に残存する小林分で多数の 巨木が最近発見された.その学術上,自然保護上 の価値を本論文では検討する.